弁理士が説明する「それってパクリじゃないですか?」第3話の専門用語

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!ネタバレ注意!※ネタバレを含みますので、未見の方はTverでドラマをご覧になってからお読み下さい。
4/26放送の「それってパクリじゃないですか?」第3話を見ましたけれど、今回は専門的内容に寄っていてとりわけ難しいテーマでしたね。というわけで、今回も専門家として、初学者にもわかりやすいよう条文を交えて説明していこうと思います。

侵害予防調査とは?

ドラマの中では「悪魔の証明」とも言われていましたが、新製品の販売・新サービスの提供を開始する前に、新製品・新サービスが他社の特許を侵害していないことを調べるための調査です。ドラマではJ-PlatPatを使って調査しており、実際にはドラマでも行われていたキーワード検索と、分類検索とを併用します。例えば、キーワード検索は、他社の特許出願に使用されていそうなキーワードを推測して、そのキーワードが含まれる特許を検索します。しかし、キーワードというのは、会社によって又は弁理士によって使うものが異なります。そこで併用されるのが分類検索です。

分類検索では、特許分類(FI/Fターム、IPC)を使用して検索します。これらの特許分類は、特許出願後に特許庁において付与されるもので、例えば、スムージーのFI・IPCだと「A23L2/02」等ですし、Fタームだと「4B117」等があります。「陣取り合戦」というワードが頻出するこのドラマですが、キーワードだけだと、歪な陣(以下の図の円)が重なってしまってどうしても隙間が生じてしまいます。そこを埋めるために、特許分類での分類検索が必要になります。

また、侵害予防調査では、特許請求の範囲(請求項・クレームともいいます)に記載されている発明の内容が、新製品・新サービスと同一であるか(異なる部分がないか)を検討します。このとき、基本的には、特許請求の範囲に記載されている発明と全てが同一であれば特許権の侵害と判定されます。例えば、「A、B、及びCを含有するスムージー」と記載されていた場合、「A、B、及びDを含有するスムージー」は同一ではないので、特許権を侵害しないと判定できます(例外もあります)。このように、全ての要素(上の例でのA、B、及びC)を含んでいなければ特許権の侵害とならないルールを「権利一体の原則」又は「オール・エルメント・ルール」と言います。

また、特許請求の範囲には、一つのみの請求項が含まれていることもありますが、複数の請求項が含まれていることもあります。そして、複数の請求項が含まれている場合には、請求項ごとに特許権があるものとみなされます。

請求項ごとに特許権があるとは -特許法第185条–

複数の請求項の請求項ごとに特許権があるということは、それぞれの請求項の発明について特許権が設定登録されているということです。そのため、それぞれの請求項ごとに特許権を行使できますし、また無効にすることもできます。

例えば、ドラマで注目された請求項は、【請求項8】でした。そして、この【請求項8】は【請求項7】にぶら下がっていて(従属していると言います)、特許権者は、【請求項8】に記載されている発明の特許権を行使することもできるし、【請求項7】に記載されている発明の特許権を行使することもできます。つまり、特許権者は、以下の【請求項7】の工程(a)から(c)の全ての工程を実施するスムージー飲料の製造方法に対して特許権の侵害を訴えることができます。また、特許権者は、工程(a)から(c)の全ての工程を実施するスムージー飲料の製造方法であって、さらに【請求項8】の野菜と果実、及び乳成分を調合したスムージー飲料の製造方法に対しても特許権の侵害を訴えることができます。

【請求項7】請求項1~6のいずれか一項記載のスムージー飲料を製造する方法であって、下記の工程(a)、(b)及び(C)を有することを特徴とするスムージー飲料の製造方法。
工程(a):不溶性食物繊維を水に添加し、剪断力を加えながら65~90℃の温度で30~75分間分散溶解する工程。
工程(b):工程(a)で得られた分散溶解液に、乳成分を加え、混合液を得る工程。
工程(c):工程(b)で得られた混合液と、野菜搾汁液又は果実搾汁液とを混合する工程。
【請求項8】低温スチームによる保存をした野菜と果実、及び乳成分を調合したものである、請求項7記載のスムージー飲料の製造方法。

「それってパクリじゃないですか?」第3話より引用

権利一体の原則とは?

上述しましたが、特許請求の範囲(請求項)に記載されている発明と全てが同一であれば特許権の侵害と判定されるというルールです。上記の【請求項8】でいえば、「 野菜と果実、及び乳成分を調合した 」という概略三つの要素が記載されています。そのため、その内の「乳成分」が調合されていなければ、少なくとも【請求項8】に記載されている発明の特許権は侵害しないということです。ドラマの中では、「乳成分」に代えて「ライスミルク」を使用するのが特許権の回避策でした。

なお、「乳成分」は、食物アレルギーの表示ルールに従うと、「乳及び乳製品」ですので、牛又は山羊等の乳ではないライスミルクは除かれるはずです。しかし、特許の世界では、請求項に記載されている文言の意味は、出願書類(明細書及び図面等)を参酌して解釈します(特許法第70条第2項)。つまり、「乳成分」の意味は、出願書類に書いてある意味となります。そのため、北脇さんが言っていたように「一言一句」が大事になるわけです。

特許権を回避できてないよね?

というわけで、ドラマの事例を検討すると、特許権を回避できない気がします。つまり、特許権を侵害しかねない状況ですね。結局、スムージーに別の製法が採用されたので事なきを得ていますけれども、そうでなければ全く回避できてないですね。具体的に一つ目の理由としては、【請求項7】の特許権が危ないです。つまり、【請求項8】の特許権については、「乳成分」を調合していないから大丈夫としても、【請求項7】の工程(a)から(c)は実施しているわけで、この点で危ないというわけです(仮に一部の工程を実施していないのであれば、権利一体の原則に従って、そもそも【請求項8】の特許権を侵害しない)。

また、「乳成分」に「ライスミルク」が含まれるかどうかは、出願書類の中で「乳製品」がどのように定義されているかによります。ここで、ドラマのスムージーの特許では【請求項6】の発明が存在します。そして、以下に引用するように、【請求項6】では、「乳成分」が「豆乳」であってもよいと記載されています。そのため、【請求項8】の「乳成分」は、「乳及び乳製品」には限定されていない可能性が非常に高いのです。したがって、仮に「乳成分」に代えて「ライスミルク」を使用しても、特許権の侵害となる可能性は十分にありました。創作物に野暮なことを言っても仕方ないのですけれど、なぜ従属項で脚本を書いたのか、理解に・・・。

【請求項6】乳成分が牛乳、低脂肪乳、豆乳である請求項1~5のいずれか一項記載のスムージー飲料。

「それってパクリじゃないですか?」第3話より引用

第3話までの感想

さて、第3話までを観て、知財業界の人は楽しいだろうし私も楽しく観れてます(もちろん来週も観ます)。ただ、知財の世界がつまらないのがいけないといとしても、全体的に地味なのが痛いという感想です。解決策にしても、視聴者が予想もしなかった解決策・・・とは遠いんですよね。もっと、推理要素とか逆転の閃きとかを出してもいいんじゃないかなと思います。例えば、今回だって、北脇さんが亜季さんを誘導して閃かせるとか、できたと思うんですよ。

また、北脇さんは、特殊能力(ずば抜けた洞察力)を持っていてもいいし、もしくは目標となる理想の上司であってもよい、というか持っていてほしかった。そして、亜季さんに対する優しさをもっと出してほしい・・・!今のところ、サドッ気のある上司と言えばいいですけれど、優秀な能力がよく分からんし、他部署に口は出すし、連携は取れないし、部下に対する当たりはキツイしで・・・(いや、こういう弁理士もいるけれど)。ちょっと、観ていて愉快な人ではないんですよね。

ただ、演じている重岡くんがもう可愛いので(「難しいセリフを言えてスゴイ!」とか思っちゃう)、適切に評価できてない可能性はあります。まだまだ続くので、今後に期待というところでしょうか?

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