弁理士が説明する「それってパクリじゃないですか?」第2話の専門用語

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!ネタバレ注意!※ネタバレを含みますので、未見の方はTverでドラマをご覧になってからお読み下さい。
4/19放送開始の「それってパクリじゃないですか?」第2話を見ましたけれど、今回は難しいテーマですね。むしろ、専門家の方が難しいと感じるテーマです。というわけで、今回も専門家として、初学者にもわかりやすいよう条文を交えて説明していこうと思います。

パロディとパクリの違いとは?

ドラマの中では「愛」の有無とも言われていましたが、その前に日本では、パロディであることが商標権の侵害から逃れることができる理由であるとはされていません。つまり、パロディであるとしても、登録商標に類似していて類似する商品・サービスで使用していれば、商標権の侵害となるわけです。その点からは、パロディとパクリとの違いを議論する意味はありません。ですので、専門家の観点からすると、許されるパロディと、許されないパクリという違いに着目することになります。もちろん、許すかどうかは商標権者(オリジナル)の主観によるので、判断は非常に難しいです。

個人的には、パロディが許されるかどうかは、オリジナルを尊重しているか否かによると思っています。オリジナルを尊重していれば、パロディとして許容される余地があり、そうでなければパクリとして排除されるという意見です。具体的には、①オリジナルと明確に区別できる、②オリジナルのブランド価値を棄損しない、③オリジナルのビジネスに損害を与えない、④オリジナルから許されない場合には中止する、⑤独占しようとしない、という条件が必要だと思います。

①は、混同が生じないということで、例えば、消費者がオリジナルの商標と間違えることがない程度に似てないということです。②は、オリジナルとは似てないとしても、オリジナルを侮辱するような差別的又は卑猥なものではないということです。③は、オリジナルと、消費者が違うということで、例えば、販売地又は購入者等が異なるということです。

④は、オリジナルから中止を要請されたときに、それに従うということで、可能であれば事前に許諾を得るべきでしょう。そして、⑤は、パロディをする側が独占的な利益を得ようとする姿勢は許容され難いということですね。とはいえ、人によって定義が異なりますので、一意見としてご理解いただければと思います。

絵を描いてあげることと著作権(複製権)-著作権法第21条–

ドラマの中では、亜季さんが描いたハリネズミの絵を勝手にお菓子にプリントしていましたけれど、どんな形であれ(紙に描いた絵をお菓子にプリントするとしても)、複製するのは著作権を侵害する可能性があります。一般に、絵を募集して、それを製品化するケースであっても、著作権の扱いを応募要項に明示していなければ、作者(著作者)が著作権(複製権)を所有します。つまり、同じ創作物(例えば絵)と判断されるものを作る(複製する)権利は、作者がもっていることになります。そのため、もの(紙とお菓子、紙と画像)が違うとしても、原則的に複製は許されません。なお、「俺が拡散(又は商品化)して価値を高めてやった」とかいう、応援行為が許される理由にはなりませんので、特に注意が必要です。

不正使用取消審判とは? -商標法第51条-

ドラマの中で「緑のオチアイさん」は、商標登録されていました。基本的に、読み方(称呼)が似ている場合、商標が類似して登録されないのですが、「緑のお茶屋さん」が緑茶で、「緑のオチアイさん」がお菓子ということで、商品が似てないから両方が商標登録されていた設定であると考えられます。そのため、原則的には商標を無効とする理由がなく、そこで北脇さんが主張したのが「不正使用取消審判」です。

これは、商標権者(落合製菓食品)が故意に登録商標(緑のオチアイさん)に類似する商標を使用して、他人(月夜野ドリンク)の業務に係る商品(緑のお茶屋さん)と混同を生じさせたときに、商標登録を取り消すことができる制度です。ドラマの中で、「緑のオチアイさん」のロゴは、「緑のお茶屋さん」と似せるように変更されていました。そのため、登録されている商標とは違う(けれども似ている)ものになっていたはずです。

このように当初とは変わった商標を使っていて、「緑のお茶屋さん」の関連商品と間違って購入する消費者がいれば、「緑のオチアイさん」の商標を取り消すことができるというのが、不正使用取消審判です。ドラマの設定では、意図的にパッケージデザインを似せているということでしたので、不正の目的が認定されやすく、取消されやすい方に傾いていると言えます。なお、不正使用と商標権の侵害とは別の話ですので、不正使用をしていたとしても、商標が取り消されるだけであって、それが直ちに緑のお茶屋さんの商標権の侵害となるわけではありません。

先使用と商標の無効 -商標法第4条第1項第10号-

ドラマの中では、「ふてぶてリリィ」が「パリーク」(多分、「パクリ」をもじった社名)に先に商標登録されてしまっています。ドラマで度々説明されているように、知財の制度は早い者勝ちですので、基本的には、先に商標登録出願をしていなかった場合には、商標を変更するしかありません。しかし、例外的に、他人の業務に係る商品の商標(ふてぶてリリィ)が、消費者に広く知られている場合には、この商標に類似する商標は、登録されません。

そして、広く知られている商標が間違って他人に登録された場合、その商標登録を無効にすることができます。ドラマの中では、ふてぶてリリィが広く知られている設定でしたので、無効にできるということになるかと思われます。とはいえ、広く知られているというのは、言い換えれば、知らない人がいない(少ない)ということです。そのため、通常は、広く知られていると認められるケースは、ごくわずかということになります。

ただし、広く知られていても、不正の目的がなく商標登録から5年経過していると、無効にすることができません。とはいえ、広く知られている商標を登録させた場合に知らないはずはないので、通常は不正の目的があると判断されると思われます。

悪気がなければパロっていいの?

「悪気がなかった」というキーワードが出ていましたけれど、パロディに関しては、事前に許諾を得ていた場合を除いて「悪気がない」ことが許される理由にはならないと思います。乱暴に言えば、「悪気がなく殴った」と言っているのと同じだと思うのです。なぜなら、パロディされた側(殴られた側)にしか、被害が分かりませんので、パロディいされた側ではない人(他人も含め)には、「悪気」の有無が判断できないからです。

また、仮に、よかれと思ったパロディであっても、オリジナルの評判を落とすことがあります。分かりやすい例では、卑猥又は差別的ととられるパロディは、 オリジナルの評判を落とします。また、パロディ商品が購入されることによって、オリジナルの売り上げが減少することもあるでしょう。一例として、オリジナル商品が売れたかもしれない場面で、話題のためにパロディ商品が買われることがあるかもしれません。

このように予想外の迷惑をかけることがあるため、パロディをする側は、事前に許諾を得るなどの細心の配慮を払うべきだと思います。

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