著名な競走馬の名称は商標登録できるのか?

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商標法 独学 チワワ

「トウカイテイオー」等の著名な競走馬の商標登録出願に関してTwitterのスペース(「競走馬の商標登録出願について話そうじゃないか」)で意見交換をしましたので、その報告です。

状況のおさらい

まずおさらいですが、複数の著名な競走馬に対して、無関係と思われる第三者によって商標登録出願※「トウカイテイオー」、「ライスシャワー」、「スペシャルウィーク」など12頭 がなされていました。
2021年は、Cygamesによるスマートフォン向けゲームアプリである『ウマ娘 プリティーダービー®』が売り上げを伸ばしており、それとの関係も考えられます。

このうち、メジロマックイーンスペシャルウィークは、何故か出願が取下げられています。
そして、ゴールドシップソダシサイレンススズカトウカイテイオーコントレイルライスシャワー、及びダイワスカーレットには拒絶理由が通知されています。

拒絶理由の内容

拒絶理由の内容は、商4条1項7号(公序良俗違反)、同10号(他人の周知商標)、同15号(商品又は役務の出所の混同)、同19号(他人の周知商標と同一又は類似で不正の目的をもって使用をする商標)ですが、以下のようにコントレイルだけ周知商標の使用者の認定が微妙に異なります。

ゴールドシップ、ソダシ、サイレンススズカ、トウカイテイオー、ライスシャワー
 F・K審査官:周知商標の使用者はJRA(日本中央競馬会)、役務は競馬の企画・運営又は開催

コントレイル
 U・N審査官:周知商標の使用者は中央競馬PRC社(JRAの子会社)、商品はぬいぐるみ,フィギュア,パズル

上記のように審査官の間で判断が分かれた理由としては、次に述べる論点が関係あるように思われます。

競走馬の名称は周知商標か?-ギャロップレーサー事件-

そもそも、競走馬の名称が特定の役務又は商品の周知商標なのか、具体的には、JRA(又はその子会社)による名称の使用が、出所表示としての使用であるのかが論点となりました。
この点、著名な判例として、ギャロップレーサー事件(平成13年(受)第866号)があります。※なお、同趣旨の判決として、ダビスタ事件の高裁判決があります。

ギャロップレーサー事件は、馬主等の許可なく著名な競走馬の名称を使用したゲームに対する損害賠償が請求された事件です。
そして、この事件では概略次のように判断されました。

①競走馬の名称が顧客吸引力を有するとしても、法令等(商標法のような)の根拠もなく、競走馬の所有者に対し排他的な使用権を認めることは相当ではない
競走馬の名称の無断利用行為については、違法とされる行為の範囲・態様等が法令等により明確になっていないので、不法行為が成立しない
③よって、差止請求及び損害賠償請求は認められない。

つまり、少なくとも所有者(馬主)には、競走馬の名称の独占的使用権が認められません
また、宣伝(営利)目的の馬名(例えば「イエスタカス」)を競走馬の名称にすることはできませんので、役務又は商品の名称を競走馬の名称として登録することもできないと思われます。
というわけで、JRAが商標的に使用していない限り、競走馬の名称は、特定の役務又は商品の周知商標にならない可能性があります。

競走馬の名称は周知商標か?-商標弁理士でも揺れる見解-

仮に、JRAによる競走馬の名称の使用が、役務・商品の出所表示としての使用でなければ、公序良俗違反以外の拒絶理由は、その根拠を失います。
この点について話をした所、役務・商品との関係によって結論が変わるという意見が出ました。
例えば、競走馬の育成役務(調教)、馬の育成で(繁殖)では、商標的使用になるというものです。

一方、JRAによる使用は、例えば、馬券に競走馬の名称を付しても、それは単なる出走馬の内容を表示しているに過ぎず、出所表示としての使用でないという意見が出ました。
逆に、JRAによる広告、例えば、競馬のCM・ポスターならば、商標的使用に該当し得るという意見もありました。
具体的には、拒絶理由通知でも挙げられているように、JRAポスター「ヒーロー列伝コレクション」があるので、JRAが広告として使用している例が存在しています。

ということで、JRAの使用商標として周知であるのか(JRAが競馬の企画・運営又は開催という役務に商標的に使用しているのか)は、結論がまとまりませんでした。
なお、コントレイルの商標について、ぬいぐるみ等の商品に対する周知商標であると認定されたのも、この論点が関係していると思われます。

公序良俗違反について

次に、周知商標でないとして、公序良俗違反が成立するのかについても話しました。
しかし、これについても、結論はまとまりませんでした。
まず、JRAの周知商標でないとすると、JRAに対する剽窃出願(悪意の商標登録出願)ではない、ということになります。

また、競馬の企画・運営又は開催については、先取りした商標を高値で売り付けるような不正の目的も考えられません。
さらに、そもそも競走馬の名称を管理する者・団体は存在せず、過去にはギャロップレーサーを販売していたテクモ株式会社が所有する登録商標「トウカイテイオー」(登録4369557)も存在していました。
ということで、無関係の第三者による登録が、必ずしも公序良俗違反になるとは言い切れないという・・・歯切れの悪い結果となりました。

なお、参考になる判決として、赤毛のアン事件(平成17年(行ケ)第10349号)があります。
この事件では、「本来万人の共有財産であるべき著作物の題号について、当該著作物と何ら関係のない者が出願した場合、単に先願者であるということだけによって、唯一の権利者として独占的に商標を使用することを認めることは相当とはいい難い。」として、公序良俗違反が認定されて、商標登録が無効であると認定されました。

また、他の判決として、ターザン事件(平成23年(行ケ)第10399号)もあります。
この事件では、「『ターザン』の顧客吸引力に便乗しようとする不正の意図に基づく剽窃行為であるとまでいうとはできない。しかし・・・たとえその指定商品の関係で顧客吸引力がないとしても,国際信義に反するものというべきである。」として、公序良俗違反が認定されて、商標登録が無効であると認定されました。

両事件をまとめると、顧客吸引力に便乗する意図がなくとも、著名な名称を、その名称と無関係の者が、登録商標として使用することは公序良俗に反する可能性があります。

まとめ

1.競走馬の名称は、特定の役務・商品との関係では、商標に該当する可能性がある
2.著名な名称を、その名称と無関係の者が、登録商標として使用することは、公序良俗に反する可能性がある
・・・可能性があるというのでは、締まらない話ですが、スペースでの議論なので勘弁して下さい。

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