ヤフーによる広告用語の複数出願の真意


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広告業界で一般的に使われている複数の用語が商標登録出願されていることがSNS上で話題になっているそうです。この騒動を受けて、出願人であるヤフーは、独占の意図はないと否定するコメントを発表しました。いわゆる先取り出願によるトラブルを回避することが目的であり、「商標を独占する意図はありません」とのことですが・・・。
その真意はどこにあるのか?を検討してみました。
ヤフーが広告用語で“大量の商標出願” 「先取りを防ぐため」「独占の意図はない」と説明

実際に何が出願されているの?

具体的には、以下のような商標が出願されているようです。
フリークエンシーキャップ[商願2019-83554]
入札戦略[商願2019-83555]
Bid strategy[商願2019-83556]
Target CPA[商願2019-83557]
オーディエンスカテゴリー[商願2019-83558]
レスポンシブ[商願2019-83559]
リッチアド[商願2019-83560]
Rich Ads[商願2019-83561]

ところで、いわゆる先取り出願とは、「他人の商標の先取りとなるような出願」であって、自らが使用しない商標であって未登録又は他人が使用している商標を、他人に先駆けて商標登録出願したものです。とはいえ、知っている方には、某ベストライセン○社による大量出願といった方が分かりやすいかもしれません。

なお、某社による出願のほとんどは、出願手数料が支払われておらず、却下される可能性が極めて高いものであります。また、却下前に分割出願された場合であっても、出願日が遡及しないため(改正商標法第10条第1項)、出願を先取りされてしまった他人が後から出願すれば、適法に商標権を取得できます。そのため、現在の先取り出願による影響は、商標決定の際の邪魔物であったり、余計な手続きを増やしたりという限定される範囲に留まるように思います。

出願人の主張は?

上記のように、先取り出願による影響は限定的ではありますが、いまだに先取り出願が行われています。そこで、防衛的な観点、つまり先取り出願によって商標登録されてしまうことを防ぐために、防衛的な観点から先取って出願しているというのが第1の主張です。

弊社サービスに使用する商標につき、先取り防止の観点から、積極的に商標出願を行っています。また、これにとどまらず、インターネット業界全体においても先取りがなされると影響が大きい商標についても同様に、防衛的な観点から、商標出願を行っています。』(Yahoo! JAPANの最新マーケティング情報より引用)

また、第2の主張として、自社が出願することによって、一般的な用語であることが認めらえて登録されないことの確認ができる点が挙げられています。

業界全体に影響する商標は、特許庁の審査によって、識別力がない、一般的な名称であると確定すれば、先取りを目的とした一部の企業や個人も権利化できないことになります』 (Yahoo! JAPANの最新マーケティング情報より引用)

最後に、第3の主張として、仮に登録された場合であっても「広く使っていただけるようにしたい」、つまり第三者への使用を許諾する意向であるとしています。

弊社が独占的に使用する意図があるのではないかとのご心配をお掛けしておりますが、そのような意図はありません。・・・登録となっても、ヤフーはそれらの商標を独占する意図はありません。業界において広く使っていただけるようにしたいと考えています。』 (Yahoo! JAPANの最新マーケティング情報より引用)

出願人の主張は妥当なのか?

防衛的な観点から先取って出願しているという第1の主張は、実際に先取り出願される危険性があるという事実の一例として、「レスポンシブ(RESPONSIVE)」を、某社がすでに出願済みです[商願2019-063092]。そのため、一応の危険性が認められるので、妥当な主張であると言えそうです。また、指定商品・役務が9類,35類,38類,41類,42類なので(恐らく不使用の範囲も含まれるでしょうが)、無差別に指定しているわけでもなさそうです。

ただし、上述したように、某社による商標登録出願による影響は限定的でありますし、多数の競業社が使用している用語を商標登録出願することによる委縮(使用の自粛)につながる可能性があります。この点を考慮すれば、出願直後に何らかのコメントを出すべきであったように思われます。

登録されないことの確認ができるという第2の主張は、一面では確かに正しいです。しかし、多数存在する広告用語をの登録可能性をチェックするわけにはいかないでしょうし、実際に出願されている用語はその一部であります。となれば、実際には何らかの意図をもって選択した広告用語を出願しているように思われます。今後、拒絶理由が通知された段階で権利化を断念するのであれば、第2の主張が真意に基づくことが判明するように思います。

最後の広く使って頂けるようにしたいという第3の主張は、これは言い訳かなと思います。商標というのは、商標権者が使用してこそ識別力が維持されるわけですから、不特定の者が使用してしまっては商標の機能が損なわれてしまいます。となると、何らかの管理(例えば使用許諾申請を要求する)などが想定されるわけで、その不便さを考えれば「広く使ってもらう」という目的とは大きな乖離があると思います。

出願人の真意は?

確かに、他人による先取りを防ぐというのは、目的として妥当でありますし、目的の一つではあるのでしょう。つまり、競業社に先に商標権を取得されてしまい、自身のサービスに使用できなくなる事態を避けるというのが目的の一つであるとは思います。一方、実際の所は競業社に対する牽制が真意ではないかと思います。その理由としては、自身が使用している「インタレストカテゴリー」ではなく、 「オーディエンストカテゴリー」 を出願しているからです(なお、既に出願済みで私の確認ができないだけであれば全くの的外れの想像になります)。

このことから、自社を含む業界における特定の用語の自由な使用を確保するための出願というよりも、他社が使用する用語の権利化を狙う(権利化できれば牽制となる)という目的があるのではないかと思いました。仮に、両用語を出願している(又は出願する予定である)というのであれば、専ら先取りを防ぐことを目的としていると考えることもできます。いずれにしても、使用可能な用語の選択範囲を狭めることになるので(少なくとも商標的使用か否かの判断を強制される)、部外者としては好ましくないと感じました。

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