ポスコ技術盗用事件で元従業員に10億2300万円の支払命令


新日鉄住金(以下、原告)が、韓国企業であるポスコ(POSCO)に営業秘密を漏洩した元従業員(以下、被告)を訴えて、10億2300万円の支払いが命じられました。ちなみに、新日鉄住金は現在は日本製鉄となっています。
平成29年(ワ)第29604号 損害賠償等請求事件

なお、日本製鉄の前身である新日鉄住金と約10人の元従業員との間では、元従業員が責任を認めて会社側に謝罪し、解決金(最大1億円超)を支払うことで和解が成立していますので、今回はそれとは別の子会社の元従業員ということになります。
新日鉄住金、元従業員側が解決金 ポスコ技術流出で(日経経済新聞)

前提となる事件

原告(正確にはその前身の新日本製鉄)とポスコとの間では、ポスコによる営業秘密侵害行為等を理由とする訴訟があり、その結果、ポスコが原告に300億円の和解金を支払うことなどを内容とする和解が成立しています。もともと、ポスコの営業秘密盗用は、韓国での刑事訴訟(中国企業がポスコの営業秘密を盗んだことを理由とするもの)において、ポスコの元社員が「原告から盗んだ」と証言したことに端を発します。その後、ポスコに対して原告の元従業員が営業秘密を漏洩した証拠が発見され、日本においても原告とポスコとの訴訟に発展しました。その後、高額の和解金を支払うことで和解が成立したというのは前掲の通りです。
高くついたパクリと裏切りの代償 韓国・ポスコが創業以来の危機  新日鉄住金に高額和解金(産経ニュース)
当社に係る営業秘密盗用訴訟の概要と教訓、 営業秘密保護法制について(meti)

被告の経歴

被告の経歴は以下の通りです。
昭和35年4月1日:原告に入社
平成7年1月1日:原告の子会社に転籍
平成13年:同子会社を定年退職し、同社の嘱託社員となる
平成18年1月31日:同子会社を退職
平成17年4月から平成20年3月まで:●及び●に勤務し、無方向性電磁鋼板の表面処理剤の開発のアドバイス等の業務を行い、約3000万円を受領
(以上、約35年間、研究職の従業員として電磁鋼板の技術開発に従事)

盗み出した方法

被告の主張によれば、原告の秘密情報の管理体制には以下のような穴があったようです。特に、自宅に資料を持ち帰ることができたというのは、他の事件においても盗み出しを防げなかった要因になっています。
・資料が保管された技術資料保管室において、研究開発に関与する従業員以外のどの従業員でも資料を閲覧・入手することが可能な状態であった
・退職したOBが会社を訪れて資料を閲覧したいと言って同保管室に入室することができた
・OBが来社した際には、技術的な議論を行うとともに、資料の閲覧やコピーを行っていた
・自宅で作業を行う際には資料を持ち帰ることができた

被告は子会社在籍中に技術コンサルティング契約を結んでおり、子会社在籍中に上記の穴を通じて資料を持ちだしたと考えられます。そして、ポスコの関係先に訪問して技術指導を行うと共に技術資料(原告が採用していた操業条件)を提供し、その対価として約3000万円を受領したようです。ところで、3000万円という金額ですが、原告が主張する損害額9億3000万円(ライセンス料相当額)と比較するとかなり少ない金額です。ポスコからしてみれば、まさに濡れ手に粟といったところでしょうか。

なお、原告が提出した資料には被告が出席した会議の議事録等があるようですので、今回の訴訟にはポスコの全面的な協力があったと推測されます。もしかすると、和解条件の一つとして、訴訟への協力義務が課せられていたのかもしれません。

裁判所の判断

裁判所は、『被告は,原告及び日鐵プラント設計において長年にわたって電磁鋼板の技術開発等に従事し,退職時には原告及び日鐵プラント設 計との間で秘密保持の契約が締結されていたのであり,上記の背景事情や本件技術情 報の重要性を知悉していたものと推認されることからすれば,被告において,原告と の秘密保持の契約に反し,自ら利益を得る目的で,本件技術情報をPOSCOに開示 したものと認められる。』(判決文より引用)として、不正な営業秘密の開示を認定しました。

さらに、裁判所は『本件技術情報のライセンス料相当額を算定すると,少なくとも,41億0400万円・・・を下回ることはないと認められる。』(判決文より引用)と認定し、損害額の満額を認めています。

それにしても、10億2300万円という金額は、個人に対して命じられた金額としては最高額に分類されるのではないでしょうか。被告が支払い可能かどうかも気になりますが、今後の営業秘密の盗用に対する抑止力として、非常にインパクトのある判決であると思います。

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