発明に至る動機と報奨金
職務発明制度策定に際して最重要の一つともなる検討事項について、報奨金の種類と金額とがあります。ただし、報奨金の種類について、出願報奨金と登録報奨金とは、基本的には支払われる傾向が強いため、実績報奨金(その他、ライセンス報奨金なども含む)の制度を設けるか否かという点が検討事項となります。
よく誤解されがちであるが、発明者へのインセンティブ(発明に至る動機)として、金銭的動機の割合は相対的に高いものではないとされています。例えば、長岡貞男ほかによる「発明者へのインセンティブ設計:理論と実証」(独立行政法人経済産業研究所、2014年9月)によれば、自営業者(雇用者)と被雇用者について調査した結果、発明の動機について、いずれの発明者群においても、「チャレンジングな技術課題を解決すること」が重要な動機になっており、これに続いて「科学技術の進歩への貢献からの満足感」が重要な動機になっています。一方、「社会的な威信と名声」、「昇進、および、新たなあるいはより良い雇用機会拡大」、「金銭的報酬」、「高いレベルでの独立性を求めて」は、重要な動機とはなっていません。
同様の調査結果は、「発明者アンケート集計結果」(社団法人発明協会、平成14年度)においても示されており、研究者にとって、研究開発活動のインセンティブは、第1に「会社の業績アップ」であり、第2に「研究者としての評価」であるとされています(第3が「報酬」)。したがって、報償金の多寡によって発明者へのインセンティブが大きく左右されるというのは正しい評価ではないと思われます。換言すると、多額の報奨金を支払ったからといって、それのみで発明者へのインセンティブになるわけではありません。ただし、報奨金が発明者へのインセンティブになるというのも事実であるので、報奨金をなくすことは好ましくありません。
よって、職務発明等取扱制度全体としては、特許法第35条に適合させるために定めた職務発明等取扱規程の報奨金だけでなく、「技術課題解決に対する挑戦意欲を満たすこと」、「技術進歩への貢献に対する満足感を満たすこと」、「所属組織に対する高い貢献を示すこと」などの目的別報償を盛り込み、制度全体として発明者へのインセンティブを高めることも有効です。
また、「職務発明に関する各国の制度・運用から見た研究者・技術者等の人材流出に関する調査研究報告書」(株式会社野村総合研究所、平成26年2月)によれば、特許出願や権利化の手続に関わる負担は大きい(どちらかといえば負担は大きい)と感じている発明者の割合は、66.4%です。さらに、特許出願や権利化の手続について、研究者が行うべき業務ではなく、追加的な業務であると考えている発明者の割合は、53.8%である。そのため、職務発明等取扱制度には、追加業務に対する報酬として、特許出願や権利化の手続に対する協力報償を発明の対価とは別に設ける方が、より実情に合っていると思わます。
職務発明の報奨金額に関する参考リンク集
・発明者へのインセンティブ設計:理論と実証
・発明者アンケート集計結果
・企業アンケート集計結果
・職務発明に関する各国の制度・運用から見た 研究者・技術者等の人材流出に関する 調査研究報告書
・従業員の発明に対する処遇についての調査
・新職務発明制度に関するアンケート調査結果
なお、記事内容についてのご質問、ご相談は下記メールフォームからお願いします
コメント