職務発明取扱規程例第10条 (対価の支払い)

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以下に、職務発明取扱規程例を掲載するが、これは一例に過ぎず、特許法第35条に適合すること、及び現実の職務発明等を取り扱うために必要十分であることを保証するものではありません。実際に職務発明取扱規程を策定・改定するに際しては、弁理士等の専門家の見解を仰ぎ、企業毎に適した規程及び制度を策定して下さい。なお、本職務発明取扱規程例では、汎用性を高めるために細かい手続的規程は別途細則にて定めるという形式を採用しています。

第10条 (対価の支払い)

 会社は、従業者等が創作した発明等を取得した場合、その取得の対価として、従業者等に次の各号に定める報償金を支払う。

一 特許出願等を行った場合は 、出願報償金を支払う。

二 特許権等を取得した場合は、登録報償金を支払う。

三 特許権等を取得した発明等が会社の実績に顕著に貢献した場合は、実績報償金を支払う。

四 特許権等を取得した発明等が会社に特別に貢献した場合は、特別報償金を支払う。

2 出願報償金及び登録報償金は、日本国及び外国において複数の特許出願等又は特許権等が存在する場合であっても、最先のものに対して一回に限り支払うものとする。

3 第1項柱書きに定める発明等が共同発明等の場合は、第6条第1項で認定された寄与率に基づいて第1項各号の各報償金を分配し、各従業者等に支払うものとする。

4 第3項に定める規定は、社外の個人、法人又は団体と共同で創作された共同発明等の場合に準用する。

5 第1項各号に定める各報奨金の額及びその他の必要事項は、別途定める算定基準及び細則に従うものとする。会社は、各報償金が支払われる従業者等に算定結果を通知する。

6 届出に係る発明等が、他人の創作した発明等の模倣である場合、又は第5条に定める届出がなされた日よりも前に会社が実施若しくは実施の準備をしていた発明等である場合、第1項の規定に関わらず会社は各報償金を支払わない旨の決定をする。当該決定をする場合、会社は従業者等に決定内容を通知する。

解説

・対価、報奨、報償、補償、褒賞などの各用語が使われる場合がある。また、(特許等を受ける権利の)取得時報償、ノウハウ報償、ライセンス報償などの報償も考えられる。なお、出願に限定されない取得時報償金やノウハウ報償によれば、ノウハウについても職務発明等と同じ制度の中で報償できるというメリットがある。

・算定基準を本規程に記載すると規程が複雑となるため、別途細則に定めることが好ましい。なお、本規程に算定者(知財部部長や、発明審査委員会等)を定めることもできる。

・第1項第4号の特別報奨金は必要な場合にのみ定めれば良い。

・第6項の通知は、対価に対する「意見の聴取」(特許法第35条5項)のトリガーとなるので、必ず通知する必要がある。なお、通知の内容は額のみではなく、算定の理由や根拠等も記載することが望まれる。ただし、営業秘密等に該当する情報の開示までが要求されるものではない。

・寄与率は、発明等の完成時点における各従業者等の完成に至った寄与の度合いに応じて決められる。そのため、出願後の補正等により寄与率を変更するのが適当な場合もある。

・第5項については、分割出願等が実績報償金又は特別報償金で評価されることを、発明者等に説明しておくことが好ましい。実際、一の基礎出願に基づく複数の分割出願が存在する場合、実績報償金の額算定時には当該発明群を評価することになろう。なお、出願毎、登録毎に支払う旨を定めても良い。

・出願・登録報償金は、定額として各発明者に(持分に寄らず)同額を支払うことも、複雑な計算が不要となるため運用上のメリットがある。また、出願後の発明者の追加・削除等に起因して持分が変動した場合であっても、報償金の再分配(返還)が不要になる。

・分割(変更)出願に対する出願・登録報償金、関連意匠に対する出願・登録報償金については、一回のみ支払うものとしても良いが、毎回支払うものとしても良い。毎回支払う場合は、二回目以降の支払額を一回目よりも低くする方法が考えられる。

・実績報償金については、一つの発明から生まれた複数の特許権等がある場合であっても、それぞれ独立してライセンス等の対象になるため、一つの発明であっても複数回(複数年)の支払いが行われ得る。

・ノウハウについても、秘匿による独占によって利益を受けていれば対価支払いが必要となる場合がある(クラッド事件※昭和54(ワ)11717)。逆に、不実施ノウハウについては当該利益が存在しないので、支払対象から除外することが好ましい。なお、ノウハウに対する実績報償金の支払いも通常の特許権と同様の基準(例えば、届出から20年間等)及び金額で支払うことが、発明者間の公平を保つために好ましい。

・無審査制度を採用する実用新案においては、出願報償と登録報償をそれぞれ支払う意味が少ない。よって、対価額の算定時に金額を考慮する必要がある。

・発明等の対価には、金銭の他に、昇給、昇級、表彰、社長・役員との懇親会、特別休暇記念品贈呈・社内表彰・全国又は地方発明表彰への応募・ストックオプション・従業者個別の待遇改善(労働環境改善や個室付与等)等の例が考えられる。ただし、経済的利益でない表彰等は、相当の利益に含まれない。また、処遇については、発明等に対する対価として行われた場合に限られる点に注意が必要である。

・特別報償金は、発明等の対価として例外的に報償すべき事情が生じた場合に適用される保険的なものと考えることができる。

・共同発明等については、第一に寄与率に応じて分配し、それができない場合は発明者等の数で等分して分配する旨を定めることもできる。しかし、寄与率を事前に届け出る制度を採用するならば、協議によって寄与率を決定することができない場合に限り、各自平等の寄与率であるとの決定を行えば足りる。

・実績報償金については報償対象となる条件を設けることが実用的である。例えば、①会社への貢献金額が○円以上の場合、②ライセンス料が○円以上の場合、などが考えられる。なお、クロスライセンスの場合は、①クロスライセンスの相手方が支払うべきであったライセンス料、又は②相手方の発明等を実施することにより支払うべきであったライセンス料に、実施許諾をした発明群のうちの対象発明の寄与率を乗じた額、のいずれか基準にすることとなろう(日立製作所事件※平成16(受)781)。

・報償金を支給された従業者は確定申告しなければならない場合があるので、その周知が必要である。例えば、実績報償のように継続的に支払われる報償金は譲渡所得となり、出願報償金又は登録報償金のように一時に支払われる報償金は雑所得となる。

・算定基準及び対価の算定が不合理であれば、従業者との協議等を経ていても合理的な対価とは認められないため、対価の算定においては、安全のために算定経過を記録に残すことが望まれる。なお、人事面での優遇や待遇改善等の従業者の処遇がなされたのならば、その旨を記録に残すことが望ましい。

・従業者等に支払うべき発明等の対価の額は、①会社が独占実施することに得られた(通常実施権による利益を超える)超過利益、②他社からの実施料収入、及び③他社とのクロスライセンスによる利益(本来支払われるべき実施料)、に基づいて算定されるのが一般的である。なお、①の超過利益は、簡易的には、自社の売上から通常実施権相当分を差し引いた超過売上高に、他社に実施許諾をしたと仮定した場合の仮想実施料率を乗じて求められる。さらに、発明等の対価の額は、発明者等の寄与率を乗じて求められる。つまり、「(自社売上-通常実施権相当分)×仮想実施料率×発明者の寄与率」で求め得る。なお、通常実施権相当分は、自社で独占的に実施していた場合は通常50~60%となる(一例:(自社売上10億円-通常実施権相当分5億円)×仮想実施料率3%×発明者の寄与率10%=150万円)。

・他社の共同発明者がいる場合、各社が自己の従業者等に対する対価を支払うのが一般的である。この場合、譲渡証に各発明者等の持分を記載すると共に、共同出願覚書等に各社がそれぞれ対価を支払う旨の条項項を設けることが好ましい。

・従業者等が特許法35条1項所定の職務発明に係る外国の特許を受ける権利を使用者等に譲渡した場合において、当該外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価請求については、同条が類推適用されるので(日立製作所事件※平成16(受)781)、対価請求が可能である点に留意すべきである。

・第1項第3,4号の職務発明等又は業務発明等について、特許発明等に限らず、未登録の発明等も報償対象に含めるならば、「特許権等を取得したか否かに関わらず」の文言を含めることが考えられる。なお、未登録の発明等を報償対象から除くために、「職務発明等又は業務発明等に基づく特許権等」と定めることも可能である。

・第1項3号の実績報償金について、実施権の設定又は許諾による実施料収入がある場合は、その実施料収入のみが「企業が受けるべき利益の額」の対価算定の基礎になると解される。つまり、独占的な自社実施がなく、使用者等には通常実施権が認められるため、自社の独占的実施による利益はないと解される。他方、実施料収入がない場合は、自社の独占的な実施による利益があると解される。なお、簡易計算するならば、自社実施による売上高に仮想実施料率(第三者に実施権を設定又は許諾した場合に推定される仮想の実施料率)を乗じた額が、「企業が受けるべき利益の額」の基礎となる。※簡易計算においては、他社に実施権を許諾すれば自社と同程度の売上を上げられるとの考えに立つ。

・実勢報奨金について、報奨金算出の基礎となる職務発明により使用者等が受けるべき利益は、職務発明が従来技術と比較して技術的優位性を有する特徴的部分から生じる。そして、当該特徴的部分は、職務発明の特許請求の範囲の記載のうち従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する部分をもって認定される(キヤノン事件※平成29(ネ)10097)。よって、当該特徴的部分を備えていない(無効理由を有する)職務発明については、いわゆる独占の利益が生じないか又は生じたとしても微々たるものとされる。

・なお、第1項では自由発明と認定された場合も報償対象に該当しうるが、積極的に除外する理由はない。

例文

仲裁センター例:第10条 (対価の支払い)
 会社は、次の各号に掲げる場合において特許を受ける権利を承継したときは、当該発明をした従業者等に対し、本規程に従い対価を支払う。
 (1) 特許出願時。
 (2) 特許登録時。
 (3) ノウハウ取得時。
 (4) 利益発生時。
 2 前項の対価の額、その算定基準、算定方式等の詳細については、別に定める職務発明対価算定基準細則(以下「算定基準細則」という)に基づき算定する。

仲裁センター例:第13条(共同従業者等に対する対価)
 第10条に規定する対価は、当該対価を受ける権利を有する従業者等が2人以上あるときは、それぞれの従業者等の寄与率に基づき、各従業者等に配分されるものとする。

発明協会例:第9条 (補償金の支払い)
 会社は、会社が次の各号に掲げる場合において特許を受ける権利または特許権を取得したときは、当該特許権にかかわる発明をした発明者に対し、審査会の議を経て、
別に定める補償金を支払うものとする。
 (1) 会社が特許を受ける権利を承継し、これを特許出願したとき。
 (2) 会社が特許をうける権利を承継し、これが登録になったとき。
 (3) 会社が特許権を譲り受けたとき。
 (4) 会社が特許を受ける権利を承継し、これをノウハウとして秘匿したとき。

発明協会例:第11条 (共同発明者に対する報奨)
 第9条および第10条の補償金は、当該補償金を受ける権利を有する発明者が2人以上あるときは、それぞれの持分に応じて支払うものとする。

特許庁例:第7条 (相当の利益)
 会社は、第4条の規定により職務発明について特許を受ける権利を取得したときは、発明者に対し次の各号に掲げる相当の利益を支払うものとする。ただし、発明者が複数あるときは、会社は、各発明者の寄与率に応じて按分した金額を支払う。
 一 出願時支払金 ○円
 二 登録時支払金 ○円
2 発明者は、会社から付与された相当の利益の内容に意見があるときは、その相当の利益の内容の通知を受けた日から60日以内に、会社に対して書面により意見の申出を行い、説明を求めることができる。

特許庁例:第9条 (実用新案及び意匠への準用)
 この規程の規定は、従業者等のした考案又は意匠の創作であって、その性質上会社の業務範囲に属し、かつ、従業者等がこれをするに至った行為が当該従業者等の会社における現在又は過去の職務範囲に属するものに準用する。

総合センター例:第7条 (相当の利益)
 会社は、第4条の規定により職務発明について特許を受ける権利を取得したときは、発明者に対し次の各号に掲げる相当の利益を支払うものとする。ただし、発明者が複数あるときは、会社は、各発明者の寄与率に応じて按分した金額を支払う。
 一 出願時支払金 ○円
  但し、当該職務発明の日本または外国における最初の出願にのみ支払う。
 二 登録時支払金 ○円
  但し、当該職務発明の日本または外国において実体審査を経た最初の登録にのみ支払う。
2.会社は、第4条の規定により職務発明について特許を受ける権利を取得した後、以下の事情に該当する場合には、相当の利益の追加的付与を行う。
 一 当該特許(出願中を含む。本条において以下同様)を第三者に譲渡して出願手続き費用・維持費用・出願時支払金・登録時支払金等(以下、「経費」という)を超える顕著な対価を得たとき
 二 当該特許を第三者に実施許諾等して経費を超える顕著な対価を得たとき
 三 当該特許を使った製品又は事業を当該特許により独占的に実施でき、かつ当該事業から顕著な利益が出たとき
3 追加的に付与される相当の利益の内容に関しては、別途従業員と協議して定める。
4 発明者が希望し会社が承認する場合には、本条第3項に代わり、以下の相当の利益を追加的に付与することができる。
 一 ・・・・・
5 発明者は、会社から付与された相当の利益の内容に意見があるときは、その相当の利益内容の通知を受けた日から60日以内に、会社に対して書面により意見の申出を行い、説明を求めることができる。

総合センター例:第9条 (実用新案及び意匠への準用)
 この規程の定めは、従業者等のした考案又は意匠の創作であって、その性質上会社の業務範囲に属し、かつ、従業者等がこれをするに至った行為が当該従業者等の会社における現在又は過去の職務範囲に属するものに準用する。但し、第7条第 1 項の出願時支払金および登録時支払金は、以下の通りとする。
 一 実用新案登録出願時支払金 ○円
 二 意匠登録出願時支払金 ○円
 三 意匠登録時支払金 ○円

総合センター例:第10条 (特許出願せず秘匿化した職務発明)
 この規程は、特許出願せずに秘匿化する職務発明にも適用する。
2 前項の秘匿化する職務発明のうち、事業に使っていて、特許出願する発明と同等の重要性があり、かつその内容に特許性があると会社が判断するものについて(以下、「重要な秘匿化発明」という。)、会社は、特許出願を行わない旨決定した時点で、発明者に対し、秘匿時支払金として○円を支払う。
3 重要な秘匿化発明について、第7条第2項各号に相当する事情に該当するにいたった場合には、相当の利益の追加的付与を行う。この場合、相当の利益の内容については、第7条第3項及び第4項を準用する。

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