以下に、職務発明取扱規程例を掲載するが、これは一例に過ぎず、特許法第35条に適合すること、及び現実の職務発明等を取り扱うために必要十分であることを保証するものではありません。実際に職務発明取扱規程を策定・改定するに際しては、弁理士等の専門家の見解を仰ぎ、企業毎に適した規程及び制度を策定して下さい。なお、本職務発明取扱規程例では、汎用性を高めるために細かい手続的規程は別途細則にて定めるという形式を採用しています。
第2条 (定義)
本規程において、次の各号の用語の意味は、当該各号に定めるところによる。
一 「従業者等」とは、その名目又は期間を問わず、会社と雇用関係又はそれに準ずる関係にある者、及び会社の執行役員、取締役又はこれらに準ずる地位に就いている者をいう。
二 「発明等」とは、発明、考案及び意匠をいう。
三 「発明者等」とは、発明等を創作した者をいう。
四 「共同発明等」とは、複数の発明者等が共同して創作した発明等をいう。
五 「職務発明等」とは、その性質上会社が現在行っている又は将来行う予定がある業務範囲に属し、かつ、その発明等をするに至った行為が会社における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明等をいう。
六 「業務発明等」とは、職務発明等を除き、その性質上会社が現在行っている又は将来行う予定がある業務範囲に属する発明等をいう。
七 「特許等を受ける権利」とは、日本国及び外国における、特許を受ける権利、実用新案登録を受ける権利及び意匠登録を受ける権利をいう。
八 「特許出願等」とは、日本国及び外国における、特許出願、実用新案登録出願及び意匠登録出願をいう。
九 「特許権等」とは、日本国及び外国における、特許権、実用新案権及び意匠権をいう。
十 「会社」とは、当社をいう。
十一 「退職」とは、従業者等の地位を失うことをいい、「退職者」とは、従業者等の地位を失った者をいう。
解説
・本条は、読み手、すなわち発明者等となる従業者等に対する解説としての意味も持つ。そのため、難解な用語については、必要不可欠でなくとも本条に記載することが望まれる。
・「発明等」について、発明のみを対象とするように記載し、本規程の最後に「本規程は、実用新案法第2条第1項に定める考案及び意匠法第2条第1項に定める意匠について準用する。」等と定めることもできる。
・本規程には含まれていないが、種苗法第8条の職務育成品種を含めることも可能である。ただし、対価に関する条文が特許法第35条とは異なるので、別規程を設ける方がより好ましい。
・「従業者等」には、会社が雇用する者(契約社員(有期の期間で雇用契約を結んで職務に従事する者)を含む。なお、嘱託社員も、業務を委託された契約社員の一種であり、医師や弁護士を嘱託とする場合、定年退職後の従業員を嘱託社員とする場合等がある。)と、会社の役員(取締役、会計参与、監査役及び執行役等(会社法施行規則第2条第3項第3号,第4号))を含めることが多い。なお、「従業員」には、役員等が含まれない可能性があることに留意しなければならない(例えば、独占禁止法では役員と区別されている)。また、「社員」についても、法上は社団法人の構成員又は株式会社の株主等を意味する点に留意しなければならない。さらに、予約についての規程を就業規則に設けた場合、従業員には有効であるが、会社と雇用契約関係にない役員等には就業規則が適用されないことから、別途契約を締結することが必要となる。
・役員や営業部等に所属する従業者が職務発明等を行わないことが明らかであれば。これらの者を対象から外すことも可能である。しかし、将来的な人事異動の可能性、例えば、研究開発から営業部への異動や、研究開発出身の役員等も考えられるので、全従業者等を対象にすることが好ましい。
・「業務範囲」とは、使用者等が現に行っており又は将来行う具体的な予定がある全業務を指す。特に、「企業の業務範囲」とは、定款に定める「目的」に記載された事業(業務)を基準とし、現実に行われている業務及び近い将来具体的に計画されている事業(業務)のことをいう。なお、国及び地方公共団体の業務範囲は、公務員の所属する機関の所掌範囲に限られる。
・「職務発明」については、発明等をすることが職務である者による発明には限られないことを、従業者等に十分に説明する必要がある。すなわち、「職務に属する」については、研究をすることを職務とする者が、テーマを与えられ、又は研究を命ぜられた場合は明らかに該当するが、命令又は指示がない場合であっても、結果からみて発明の過程となり、これを完成するに至った思索的活動が、使用者等との関係で従業者等の義務とされている行為の中に予定され、期待されている場合も含まれる。なお、過去の業務とは、過去及び現在に渡って雇用関係にある場合の過去の職務をいう。
・本規程には「業務発明等」が含まれている。従業者等は、使用者の業務を妨害するような行為を行うことが許容されておらず、業務発明に対して届出義務や優先的協議義務等を課すことも許されると解されるからである。一方、本規程では、自由発明について定めていない。仮に定めたとしても、予約承継や届出義務、優先的協議義務等は発生せず、無効な規程になると解されるからである。なお、そもそも自社の現在又は将来の業務範囲に属さないと解される発明について、予約承継や届出義務、優先的協議義務を定める必要は無いと思われる。
・外国において特許等を受ける権利については、特許法第35条の予約承継を適用することができない。したがって、外国において特許等を受ける権利を確実に取得するためには、それぞれの国における特許等を受ける権利を譲り受ける必要がある。なお、外国において特許等を受ける権利を取得した場合も、発明等の対価支払いの対象となる(日立製作所事件※平成16(受)781)。
・第十号及び第十一号は、確認的な条項であるので、削除も可能である。
例文
仲裁センター例:第2条 (用語の定義)
本規程において、次の各号に揚げる用語の意味は、当該各号に定めるところによる。(1)「従業者等」とは、会社が雇用する者又は会社の指揮命令にしたがって会社の業務に従事する者、執行役員、取締役、顧問、嘱託等をいう。
(2)「業務発明」とは、その性質上会社の業務範囲に属する発明をいう。
(3)「職務発明」とは、その性質上会社の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至った行為が会社における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明をいう。
仲裁センター例:第21条 (外国における権利の取扱い)
第7条の規定により会社が承継した職務発明についての特許を受ける権利には、当該職務発明についての諸外国における特許を受ける権利を含むものとし、これについて本規程を適用する。
仲裁センター例:第25条
本規程は、実用新案法第2条第1項に規定する考案及び意匠法第2条第1項に規定する意匠について準用する。
発明協会例:第2条 (用語の定義)
発明を分けて職務発明およびその他の発明とする。
2.「職務発明」とは、発明がその性質上会社の業務範囲に属し、かつ、その発明をするにいたった行為が会社における従業者等の現在または過去の職務に属する発明をいう。
3.「その他の発明」とは、職務発明以外の発明をいう。
4.「従業者等」とは、社員、臨時社員、社員、参与、工員、臨時工員、雇員のほか、常勤嘱託を含むものとする。
発明協会例:第20条 (実用新案権および意匠権に関する準用)
この規程は、実用新案権および意匠権について準用する。
発明協会例:第21条 (外国出願の取扱い)
この規程は、外国の工業所有権を対象とする発明に関してもこれを準用する。
特許庁例:第2条 (定義)
この規程において「職務発明」とは、その性質上会社の業務範囲に属し、かつ、従業者等がこれをするに至った行為が当該従業者等の会社における現在又は過去の職務範囲に属する発明をいう。
総合センター例:第2条 (定義)
この規程において「職務発明」とは、その性質上会社の業務範囲に属し、かつ、従業者等がこれをするに至った行為が当該従業者等の会社における現在又は過去の職務範囲に属する発明をいう。
参考集
・IP評価研究会作成「新職務発明制度への対応」 2005年5月30日 発行(例文中、仲裁センター例として引用)
・社団法人発明協会研究部編著「職務発明ハンドブック」2000年9月19日発行 (例文中、発明協会例として引用)
・ 特許庁作成「中小企業向け職務発明規程ひな形」2016年4月1日更新(例文中、特許庁例として引用)
・ 東京都知的財産総合センター作成「職務発明制度改正対応の手引」2016年9月作成( 例文中、総合センター例として引用 )
なお、記事内容についてのご質問、ご相談は下記メールフォームからお願いします
コメント