弁理士が説明する「それってパクリじゃないですか?」第1話の専門用語

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弁理士 実務 独学 チワワ

!ネタバレ注意!※ネタバレを含みますので、未見の方はTverでドラマをご覧になってからお読み下さい。
4/12放送開始の「それってパクリじゃないですか?」第1話を見ましたけれど、正直に面白かったですね。やっぱり、自分の身近な世界が舞台だと、面白みも大きく変わってきます。さて、ドラマの中では「冒認出願」等の専門用語が登場しました。せっかくですので、専門家として、初学者にもわかりやすいよう条文を交えて説明していこうと思います。

弁理士とは? -弁理士法第1条-

ドラマの中では「理系の弁護士」と説明されており、そのような雰囲気で理解されることもあります。しかし、弁理士法第1条によれば「知的財産に関する専門家」が正しい定義かと思います。一方、業務の面から分かりやすく言えば、知的財産を権利として登録するために必要な資料を作成して特許庁へ提出する仕事をする職業です。

また、弁理士は国家資格であり、弁理士になるためには弁理士試験に合格をして、実務修習を受講した後に、弁理士会に登録する必要があります。なお、弁理士試験の合格率は6.1%(2022年)であり、高難易度の資格として知られています。そういう点では、難しい試験を合格した有資格者、という程度の理解でもよいかもしれません。

特許公報とは? -特許法第66条第3項-

特許公報は、出願された発明が特許庁での審査を経て特許権として登録された場合に、その特許権の内容を一般へ公表するために発行される書類です。正確には、特許公報には、公開特許公報等と特許掲載公報とがあり、いわゆる「特許公報」は特許掲載公報のことです。なお、特許公報に掲載された発明は、新しい発明ではなくなりますので、その後に同じ発明について特許権を取得することはできなくなります。

先願主義とは? -特許法第39条第1項-

ドラマの中での説明にあった通りで、「早い者勝ち」のルールのことです。つまり、同じ発明をした人間が複数いた場合には、より早く特許庁へ出願した者だけが特許権を得ることができるというルールです。なお、「出願」とは、発明の内容を説明した書面(説明文及び図面)を特許庁へ提出することです。例えば、先にボトルを発明したのが亜季さんとしても、後から発明したハッピースマイルビバレッジが先に出願をしてしまえば、亜季さん(月夜野ドリンク)は特許権を取得することができません。

また、先願主義に対して、先発明主義というルールもあります。日本では採用されていませんが、同じ発明をした人間が複数いた場合には、より早く発明した者だけが特許権を得ることができるというルールです。ただし、発明日の立証をめぐって争いが生じやすいという問題があるので、日本では先願主義を採用しています。

冒認出願とは? -特許法第123条第1項第6号-

先願主義という「早い者勝ち」のルールはありますが、他人の発明を盗んで出願することは認められません。このような出願を「冒認出願」といいます。正確には、特許を受ける権利を有しない者による出願のことです。冒認出願は特許権が無効になる理由の一つですので、無効審判を特許庁に請求して、特許を無効にすることができます。ちなみに、特許が無効になった後に、本当の発明者が出願をしても、特許権を取得することはできません。

また、冒認出願を主張された特許権者(ドラマの中ではハッピースマイルビバレッジ)は、自らが発明したことを立証する必要があります。例えば、発明者は、日々の研究の進捗を記録する研究ノートを作成することが推奨されています。そのため、この研究ノートを証拠として、自らが発明したことを立証することができます。なお、ドラマの中では亜季さんがメモ帳に記録を残していて、盗み見されそうになるピンチもありました。こういう危険もあるので、このようなメモ帳を社外に持ち出すことは厳禁です。

移転請求とは? -特許法第74条-

冒認出願の場合、特許権を無効にすることができる他に、真の発明者は特許権の移転を特許権者に対して請求できます。この制度は、冒認出願がされた後に真の発明者が出願をしたとしても、真の発明者が特許権を得ることができないために創設されました。

なお、実際には訴訟を行って冒認出願であることを認める判決を得た上で、判決の写しとともに「特許権移転登録申請書」を特許庁へ提出する必要があります。そのため、ドラマの中ではハッピースマイルビバレッジが自主的に移転手続きを行った(正確には移転に同意した)ということなります。

開発部長が乗り込んだ理由は?

ドラマの中で、月夜野ドリンクの開発部長の高梨さんが、ハッピースマイルビバレッジに乗り込むシーンがありました。正直に言えば、意味の分からない行動なのですけれど、「発明者の人相を確認しに行った」という理由があるのかなと思います。

想像ですが、最後に登場する証拠映像の存在を既に知っていて、相手方の人相を予め確認するために乗り込んだのではないかと思います。なお、実際には、他社の特許発明を実施するかどうかも分からない段階で、無効理由の精査もせずに相手方へ乗り込むような無茶をすることはないです。

先使用権は成立しないのか? -特許法第79条-

先使用権とは、自ら発明をした者が発明を実施(又はその準備)をしている場合に、継続して発明を実施できる権利のことです。他人に特許権を取得されてしまっても発明を実施できるので、最後の最後の頼みの綱になります。ドラマでは、月夜野ドリンクが先に発明していたので、先使用権が成立する可能性を考えた方もおられるかと思います。

この点、先使用権が認められるハードルは案外高く、即座に実施することができる程度の準備をしていなければ認められません。ドラマの中では、まだ製品化の準備前の段階でしたので、先使用権が認められる可能性は低いと思われます。

情報漏洩をしたとウソをついてもいいのか?-特許法第199条-

ドラマの中では弁理士の北脇さんが情報漏洩したとウソをつくことを亜季さんに強要するようなシーンがありました。実際に冒認であるという確信があってのことでしょうが、それだとしてもウソはダメです。まぁ、それ以前の問題として、月夜野ドリンクがウソをついたとしても、ハッピースマイルビバレッジがウソを認めることはないと思うので、強要する意味がないですけどね。

さて、冒認出願によって特許を無効にするためには無効審判を請求する必要がありますが、この場合、亜季さんは特許庁にある審判廷で証言をすることになる可能性が非常に高いです。そして、証人が特許庁に対し虚偽の陳述をしたときは、三月以上十年以下の懲役に処される可能性があります。ですので、ウソをついて特許を無効にしようなどと考えてはいけません!

無効理由があるのではないか? -特許法29条第1項第1号-

ドラマの中では別ルートでの情報漏洩が明らかになっています。情報漏洩の場合、情報を受け取った相手と秘密を守る約束をしていなければ、第三者に知られた発明となり新しい発明ではなくなってしまいます。そのため、その後に特許が登録されたとしても、新しい発明ではないという不登録理由(拒絶理由)があるのに、登録されてしまったことになります。これも無効理由になりますので、ハッピースマイルビバレッジから特許権が移転されても無効理由があると考えることもできます。

ただし、ボトルを見せた程度でその製造方法がバレるというのは考えにくく、ドラマの設定では、発明の内容が知られた状態ではなかったと想像します(そうすると、冒認出願ではなかったことになり、移転する必要もなくなるのですが・・・)。そのため、ハッピースマイルビバレッジには別の弱みがあって、止むを得ず移転に同意したということかと思います。

具体的には、泥酔させてメモ帳を盗み見ようとするなど、ドラマでは営業秘密の不正な取得を企む様子が伺えます。そのため、何らかの不正取得が介在していて・・・ということではないかなと想像するのです。なお、不正に取得した営業秘密を使用する行為は、不正競争行為(不正競争防止法第2条第1項第4号)ですので、ハッピースマイルビバレッジとしては隠したい事実であり、交渉に応じる理由になると思います。

最後に、ドラマも面白かったですが、冒認の件に関しては原作の方が納得感がある流れでした。この機会にぜひ原作も読んで頂ければと思います!

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