公序良俗違反による不掲載
原則として、商標登録出願をすると出願に係る商標は商標公報(公開公報)に掲載される(商12条の2第2項)。
ただし、これには例外があり、当該事項を商標公報に掲載することが公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると特許庁長官が認めるときは商標公報に掲載されない。
2 出願公開は、次に掲げる事項を商標公報に掲載することにより行う。ただし、第三号及び第四号に掲げる事項については、当該事項を商標公報に掲載することが公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると特許庁長官が認めるときは、この限りでない。
(商標法第12条第2項)
その具体例としては、以下のものが挙げられている。
① 猥褻、きょう激又は卑わいなもの
② 特定の者の名誉を毀損するもの
③ 特定の国又は国民を侮辱する等国際信義に反するもの
④ その他社会一般の道徳観念に照らし反社会的と認められるもの
そのため、商標公報に掲載されない事例はかなり珍しいのであるが、そのレアケースとなった出願がある。
それが、商標公開2020-042617号である。
リンク先に飛んでいただけると分かるが、商標公報には「公序良俗違反により不掲載」と明示されており、商標の内容が全く分からない。
見れない人は、下のPDFで見て欲しい。
公序良俗違反による拒絶
また、公序良俗を害する恐れがある商標は、拒絶の対象となるため登録されない(商4条1項7号)。
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
(商標法第4条第1項第7号)
・・・
七 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標
なお、商標法の公序良俗違反については、近年様々な事例に適用されているが、その一例として審査基準には、以下のものが挙げられている。
(1) 商標の構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音である場合。
そうすると、商標公報に掲載できないような商標が登録されるというのは、通常では考えにくい。
しかし、これが登録されたのである(しかも一発登録!)。
なぜ登録されたのか?
公開されないとすると、商標権の内容をどのように知ればよいのか?
そして、どのような商標であったのか?
・・・業界がざわついたかは知らないが、私は個人的にざわついた。
公序良俗違反商標の内容
さて、実際に登録されたのは商標登録第6373075号である。
商標が登録されると、願書に記載した商標は商標公報(登録公報)に掲載される(商18条3項3号)。
なお、勘違いしていたのだが、商標登録公報には、商12条の2第2項のような公序良俗違反による不掲載の条文がない(ただし、縦覧禁止の条文(商18条4項)はある)。
そのため、商標公開公報に掲載されなくとも、商標登録公報には掲載されることになる。
というわけで、商標登録第6373075号の商標を早速みてみた。
その、商標は・・・残念ながら公序良俗に反するため、ここに書くことができない。
・
・・
・・・というのは、嘘で、商標は上のPDFにあるように
「蟻梨」(アリナシ)である。
いや、逆に驚いた。
「蟻梨」のどこが公序良俗に反するのか・・・?
そこで、グーグル先生に聞いてみたところ、どうやらデリヘルの隠語であって、本番の有りと無しを意味するものらしい(興味がある方は調べてね)。
公開公報の掲載不掲載を決定するのは、特許庁長官(というなの方式審査官)なのであるが、何か気になることがあったのだろう・・・うん。
チ〇チ〇は大丈夫
何だか拍子抜けしてしまったが、ここで業界に新たなトリビアが誕生した。
「蟻梨は公序良俗に反する」
良い子は特許の明細書に記載しちゃダメだぞ。
なお、「チ〇チ〇」は公序良俗に反しないので大丈夫。
実際に、商標公告平03-001852で公報に掲載されている。
蛇足ですが、公序良俗違反で不掲載となると商標見本が作成されないため、称呼で検索することができなくなるようです。
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