ニュース-中小企業向けタイムスタンプシステム?(追記有)

中小企業向けタイムスタンプシステム?
「タイムスタンプで中小を守る」(SankeiBiz)
記事によると、
メキキ・クリエイツが、
中小企業向けタイムスタンプシステム「ジーニアスノート」を開発したとのこと。
実効性はともかく、有用なシステムなのだろう。
ところで、気になるのは下記の部分。
「日本の中小企業は知財に対しての管理態勢が甘く・・・サンプルを貸して”とか“工場を見せて”との要請に応じ、そのまま特許出願、製品化されることが現在でも起きている。・・・技術やノウハウを他社より先に発明し使用していたことを証明できれば、侵害者に対抗できるからだ。」
・・・???
うん、多分冒認出願のことを言っているのだろう。
ただ、実際は他社(中小企業)の機密情報を利用した改良発明を出願するわけで、
冒認出願に対抗できるとはとても思えない。
できるとすれば、先使用権での対抗だが、
それにしたって、自社実施を確保できる程度の意味しかない。
さらに、機密情報を利用した製品化については、
不正競争防止法で対抗するしかないと思うのだが、
秘密管理要件を満たさないように思えるのは気のせいか?
ちょっと、疑問が残る記事でした。
【追記】
弊ブログをご覧の皆様には釈迦に説法とは思いますが、
言いっ放しなのもどうかと思うので、追記します。
さて、上記記事は、先使用権及び営業秘密に関するものと思われます。
しかし、いずれも単にタイムスタンプを押すのみで保護できるものではありません。
以下、詳細に説明します。
まず、先使用権については、
『単に図面等を作成したのみで先使用権が発生するわけではない。』
ということが重要です。
先使用権制度ガイドライン」(特許庁)
上記資料(17-18頁)に詳しいのですが、
先使用権が認められるためには「実施の準備」をしていることが必要です。
そして、この「実施の準備」とは「即時実施の意図を有しており、かつ、その即時実施の意図が客観的に認識される態様、程度において表明されていること」を意味します。
では、具体的にどういう状態で「実施の準備」と言えるのか?
上記資料には、以下の例が挙げられています。
・製品の見積仕様書及び設計図の提出
・試作品の完成・納入
・金型製作の着手
逆に「実施の準備」と認められなかった事例では、
・改良前の試作品
・研究報告書への列記
・概略図の作成
が挙げられています。
つまり、単に図面等を作成したのみでは、
『必ずしも「実施の準備」が認められるわけではない。』
というわけです。
これが認められないと、先使用権も発生しません。
但し、ケースバイケースですので、
図面等の作成のみで先使用権が発生する可能性もあります。
なお、「先使用権制度の円滑な活用に向けて」(21頁)に分かりやすい説明が有りますが、
発明完成時点で先使用権が発生するのではなく、
その後に「実施の準備」を開始してから、先使用権が発生します。
次に、営業秘密については、
『無防備に図面等を公開してしまったら営業秘密として保護されない。』
ということが重要です。
営業秘密管理指針」(経済産業省)
上記資料(13頁)に詳しいのですが、
営業秘密として保護されるには「秘密として管理されている」ことが必要です。
そして、この「秘密として管理」していると認められるためには、「①情報にアクセスできる者を特定すること、②情報にアクセスした者が、それを秘密であると認識できること」の二つが必要であると言われています。
では、具体的にどういう状態で「秘密として管理」と言えるのか(同30頁以降参照)?
上記資料には、以下の例が挙げられています。
(注:いずれか一つで秘密管理性の要件を満たすわけではない)
・営業秘密とその他の情報とを区分して管理し、営業秘密については、秘密であること及びその管理方法を指定・周知する。
・権限のない者が営業秘密にアクセスすることができない措置を講じる。
・営業秘密を記載・記録されている媒体は、保管庫に施錠して保管する。
・営業秘密を保管している施設への入退出を制限する・・・等々
逆に「秘密として管理」と認められなかった事例では、
・営業秘密が記載された紙媒体が保管されていた部屋に委託元企業の社員や外注先の業者の従業者が自由に出入りすることができ、これを閲覧しようと思えばすることができた事例。
が挙げられています。
つまり、取引先に自社の営業秘密を開示する前に、
『相手方に秘密保持義務(守秘義務)を負わせる契約を締結する。』
ということが重要です。
このような義務無く無防備に図面等を開示してしまったら、
営業秘密として保護されないのです。
但し、ケースバイケースですので、
契約書等が無くとも、秘密保持義務が生じたと判断されれば、
営業秘密として保護される可能性もあります。

最初に紹介した記事では、
『タイムスタンプは単に日付証明サービスの一つに過ぎない』という、
重要な視点が欠けているように思われます。
すなわち、
・図面等にタイムスタンプを押しただけで先使用権が発生するわけではなく、
・図面等にタイムスタンプを押しても、無防備に開示したら営業秘密としては保護されない
ということです。
民間のタイムスタンプは良いツールだと思いますが、
勘違いして使用すれば、意味がなくなってしまうのです。
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なお、本日の本室更新は「H22短答試験問45」です。
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