令和5年(行コ)第10001号「特許分割出願却下処分取消請求控訴事件」
令和4年(行ウ)第382号「特許分割出願却下処分取消請求事件」
特44条1項2号には、特許出願の分割可能期間として「特許をすべき旨の査定の謄本の送達があつた日から三十日以内」と規定されています。
そのため、設定登録後であっても、特許査定後30日以内であればる分割可能であるように読むことも可能です。
しかし、実務上では、特許権の設定登録がされた後は、特許出願が特許庁に係属しなくなるため分割出願できないとされています。
その根拠は、特44条1項に「特許出願の一部を・・・」と規定されている所、この「特許出願」は特許庁に係属している特許出願を意味するというものです。
この事件では、特44条1項の「特許出願」は特許庁に係属している特許出願を意味し、設定登録後の分割出願は時期的要件を満たさないことが判示されました。
手続の経緯
2020年07月07日:特許査定の謄本送達
2020年07月20日:特許料を納付
2020年07月29日:特許権の設定登録
2020年08月05日:分割出願
2020年09月25日:分割可能期間にされてない旨の却下理由通知
当事者の主張及び反論
出願人の主張は以下の2点です。
1.特44条の「特許出願の一部」は、分割出願の客体的要件を定めているのみであり、設定登録後は出願できないと解されるわけではない。
2.出願できないと解されるとしても、特許証受領まで設定登録を知らないので、特許出願人との関係では特許権の効力発生時期を特許証受領日と解すべきである。
特許庁の反論は以下の内容です。
1.特44条1項の「特許出願」は、特許庁に係属している特許出願を意味する。
2-1.特許出願人との関係においては例外的に特許証受領日に特許権が発生する旨を定める規定は存在しない。
2-2.特許出願人との関係においてのみ特許権の効力発生時期を別に解することは、特許権の法的安定性を欠く。
2-3.特許証は特許権の設定を公証するものにすぎず、権利の得喪変更とは無関係なものである。
判決
東京地裁は、特許庁の主張を受け入れて以下のように判示しました。
1.特44条1項の「特許出願」は、特許庁に係属している特許出願を意味する。これを踏まえると、特許査定後30日以内であっても、設定登録がされれば特許出願は特許庁に係属しなくなるので、分割出願できない。
2.「特許権は、設定の登録により発生する」(特 66条1項)とされており、特許出願人との関係において例外的に特許証の受領日に特許権が発生する旨を定める規定は存在しない。また、特許権は対世効を有するところ、特許出願人との関係においてのみ特許権の効力発生時期を別異に解することは、特許権の法的安定性を欠く。さらに、特許証は、特許権の設定を公証するものにすぎず、特許証の受領をもって特許権が発生すると解することはできない。
また、知財高裁も、地裁判決を支持して以下のように判示しました。
1.特許出願の分割は、もとの特許出願の一部について行うものであるから、分割の際にもとの特許出願が特許庁に係属していることが必要である。
2.特許権の設定登録は、分割不可化を目的とする行政処分ではなく、結果的に分割できなくなるにすぎない。
終わりに
条文から明らかには読み取れないので受験生が混乱することがあるのですが、弁理士試験では、特許法の「特許出願」が「特許庁に係属している出願」を意味するというのが通説になっており、そのことがこれらの判決からも明らかにされています。
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