知財センターが送信したメールで職務発明の対価の消滅時効が中断した事例

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・平成28年(ワ)第29490号『職務発明対価請求事件』

会社の従業員であった発明者が、職務発明の対価を請求した事件です。標準規格に準拠した製品に係る必須特許であることで貢献度が高くなった(1300万!)こと、及び発明者に送信した通知及びメールによって消滅時効が中断したこと(債務の承認となったこと)がポイントです。なお、消滅時効の中断は、改正民法での時効の更新に対応します。

10年の時効が経過した後、特に退職直前又は退職後の発明者からの問い合わせについては、知財部としても慎重に回答する必要があります。具体的に、本件においては、通知及びメールの内容が違っていれば消滅時効が認められた可能性があります。とはいえ、控訴されれば、判断が覆る可能性もあるとは思います。

事件の流れ

①平成12年4月28日 :本件特許1が設定登録
②平成13年12月20日:一回目の対価支払い
③平成19年12月18日:ニ回目の対価支払い
④平成23年10月17日:発明者が実施報奨金の支払を求める
⑤平成24年2月9日:実施報奨金を支払わない旨を通知(通知書1)
⑥平成24年8月:発明者が実施報奨金の再審査を求める
⑦平成24年8月23日:審査会において「ファミリー」全体を評価しているとメール
⑧平成24年10月19日:実施報奨金を支払わない旨を通知(通知書2)
平成25年3月:発明者が退職

裁判所の判断

1.対価の支払い時に会社が作成した書面には、本件特許1の特許番号及び発明の名称が記載されていたので、平成13年及び平成19年の支払は、本件特許1を報奨対象とするものであった
2.会社は、平成20年7月頃の運用変更により、同じ「ファミリー」を構成する外国特許については報奨対象としないこととした。
3.会社は、発明者に対し運用変更があったことを明確にしないまま、通知書1及び2を交付して、実施報奨金の支払を拒絶した。
4.発明者は、平成13年及び平成19年の支払の際に各支払額が相当の対価の額を満たすと認識していない。
5.会社は、通知書1及び2を交付した時点で、外国特許に係る相当対価請求権についての債務が存在することを知っている旨を表示したものと認めるのが相当である。
6.知財センターの担当者から送信されたメールには、①実施報奨金の支払に係る審査の際には
「ファミリー」全体を評価していること、②表彰対象として通知される特許番号はその「代表番号」として記載されたものであること、が記載されている。
7.そうであれば、本件特許1と同じ「ファミリー」を構成する外国特許についても、会社は、メールを送信した時点で、それに係る各相当対価請求権についての債務が存在することを知っている旨を表示したものと認めるのが相当である。
7.したがって、会社は、外国特許に係るに係る相当対価請求権について、通知書1及び2の交付、及び知財センターからのメールの送信により、債務を承認したと認められる。

その他

多数のライセンス対象特許において、規格を実施するために必須特許の貢献度について判断されています。例えば、ライセンス対象特許の中から非必須特許の数を算出して、非必須特許の数を1/3に減じてその貢献度を低くした上で、必須特許数を加算してライセンス対象特許数を算出しています。また、標準規格に準拠した特許製品の自社実施について、超過売上を合計売上の1割としています。

会社は、本件特許に無効理由があることを理由として貢献度が低いと主張しました。しかし、第三者に対して禁止権を行使し得る状態で存続していた以上、仮に無効理由が存在したとしても、独占の利益を享受することを想定することができるとして、主張は採用されませんでした(ライセンス交渉で無効理由が考慮されている事情もなかった)。

また、会社は、登録日前の自社実施に係る売上げは、被告が受けるべき利益を基礎付けるものではないと主張しました。しかし、出願公開後は補償金請求をし得る地位にあることによって、実質的に他社を排除できたものであるから、超過売上げが認められる限り、独占の利益を基礎付ける売上げとして考慮するとして、主張は採用されませんでした。

備考

認められた対価の額:1297万6603円
算定式:
①ライセンス料について:ライセンス料※1÷ライセンス対象特許数※2×本件各特許の数×発明者貢献度※3
②自社実施について:超過売上※4×仮想実施料率※5×本件特許の貢献度※6×発明者貢献度
 ※1.各国毎のライセンス料(使用者である企業が受けるべき利益)は、対象製品の全世界の市場に占める各国の市場の割合を踏まえて算定した。
 ※2.ライセンス対象特許数=非必須特許数(期間中の平均対象特許数-期間中の平均必須特許数)÷必須特許の重み付け係数(3)+期間中の平均必須特許数
 ※3. 発明者貢献度は、(1-使用者貢献度95%)×(共同発明者間における発明者の貢献度50%)

 ※4. 全ての企業にライセンスを認めていたこと、代替技術があったことを考慮して製品売り上げの1割とした。また、各国毎の売り上げは、対象製品の全世界の市場に占める各国の市場の割合を踏まえて算定した。
 ※5. 仮想実施料率2.5%:(株式会社帝国データバンク作成の「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~(平成22年3月)」と、社団法人発明協会発行の「実施料率〔第5版〕」を参照した)
 ※6.本件特許の貢献度(本件特許数÷実施特許数)の算定時には、「非必須特許数(期間中の平均実施特許数-期間中の平均必須特許数)÷必須特許の重み付け係数(3)+期間中の平均必須特許数」で対象製品で実施されている実施特許数を補正して、必須特許の割合を高めて貢献度に反映させている。
消滅時効の起算点:「顕著な功績、貢献が認められた場合の報奨金」について、特許権の設定登録がされた時点、又は発明の実施開始時点若しくは実施許諾時点、のいずれか遅い時点

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