Step 1 発明届出
職務発明制度のスタートは、発明届出から始まります。そのために、予め発明届出書の様式を作成しておき、発明者又は知財担当者が発明届出書に必要事項を記載します。そして、作成した発明届出書を発明部門の上長に提出します。その後、上長及び/又は知財担当者が出願要否を判断します。そして、出願する場合には、知的財産部を経由して弁理士に出願書類(明細書、特許請求の範囲、要約書、図面)の作成を依頼します。
Step 2 特許出願
弁理士から出願書類の初稿が納品されると、知的財産部から発明者へと初稿の確認を依頼します。その後、発明者及び/又は知財担当者が修正の要否を判断します。修正が必要な場合には、弁理士に修正を指示して、最終原稿の作成を依頼します。修正が不要な場合、及び最終原稿の確認が終了した場合には、知的財産部を経由して弁理士に出願を依頼します。
Step 3 出願時報奨の支払い
出願完了後に、知的財産部から出願時報奨金が発明者に支払われます。このときの出願時報奨金は、出願及び権利化に係る確認作業等に対する対価の性質を持っています。また、この段階では最終的に特許権を取得できるか不明であります。そのため、年間の出願件数等を考慮して、数千円~数万円程度の金額を定めます。
Step 4 発明の権利化
特許出願をしたのみでは、特許権を取得することはできません。そのために、出願から3年を経過するタイミングで審査請求を弁理士へ依頼します。審査請求の依頼前には、知的財産部から発明者へ、①自社、他社の発明の実施状況、②審査請求の希望の有無、及び③特許請求の範囲の修正(補正)の要否を確認します。その後、上長及び/又は知財担当者が審査請求の要否を判断します。そして、審査請求をする場合には、知的財産部を経由して弁理士に出願審査請求書(必要な場合は補正書も)の提出を依頼します。
審査請求後、一年程度で特許庁から拒絶理由が通知されます(拒絶理由が無い場合には特許査定となります)。弁理士から拒絶理由通知書を受領した知的財産部は、発明者へ拒絶理由を報告すると共に、①拒絶理由の妥当性、②補正の要否を確認します。その後、拒絶理由に対する反論が可能である場合には、知的財産部を経由して弁理士に意見書(必要な場合は補正書も)の作成を依頼します。
弁理士から意見書の原稿が納品されると、知的財産部から発明者へと原稿の確認を依頼します。その後、発明者及び/又は知財担当者が修正の要否を判断します。修正が必要な場合には、弁理士に修正を指示して、最終原稿の作成を依頼します。修正が不要な場合、及び最終原稿の確認が終了した場合には、知的財産部を経由して弁理士に意見書の提出を依頼します。拒絶理由が解消した場合には、特許庁から特許査定が送達されます。その後、特許料を納付して、最終的に特許権が登録されます。
Step 5 実施状況の報告
特許権が登録された後は、知的財産部から発明者へ発明の実施状況を確認します。実施状況の確認は、登録時の他に毎年度又は毎年行います。そのために、予め実施状況報告書の様式を作成しておき、発明者又は知財担当者が実施状況報告書に必要事項を記載します。そして、作成した実施状況報告書を発明部門の上長に提出します。その後、上長が知的財産部に実施状況報告書を回付します。
Step 6 報奨金の支払い
各年度毎又は各年毎に一回、実施状況報告書を基に知的財産部が報奨金を発明者に支払います。この時の従業員との事前合意があれば定額でも構いません。例えば、特許権(発明の)の価値をSランク、Aランク、Bランク、Cランク等の複数のランクに分けて評価して、それぞれ、100万円、50万円、10万円、5万円の報奨金を支払うということも可能です。
【簡易計算】報奨金額=特許製品の超過売上高(売上×30%)又はライセンス料×仮想ライセンス料率(5%)×製品への寄与度(100%÷製品が使用する特許数)×発明者の貢献度(10%÷発明者数)
※説明:超過売上高を算出するための超過売上率30%は、利益三分法を参考に、通常実施権を超えない範囲の売上は資本力及び営業力のみに起因するものと仮定し、売上の1/3を特許発明に起因する売上と設定しています。また、これに乗じる仮想ライセンス料率 5%は、判決でよく目にする料率として設定しています(当然技術分野によって大きく異なります)。また、発明者の貢献度を算出する際の寄与率10%は、判決でよく目にする使用者の貢献度(寄与率)が90%であることから、これに設定しています。
[計算例]単独発明者による1の特許を使用する製品の売り上げが100億円である場合、(100億×30%)×5%×(100%÷1)×(10%÷1)=1500万円
なお、権利化後の報奨金には、一般的に、登録時報奨金と実績報奨金とがあります。この内、登録時報奨金を定額(数万円程度)として、実績報奨金のみを計算するという場合もあります。蛇足ですが、発明に対する対価は、「報奨」の他に「褒賞」、「報賞」等の用語もあります。発明の創作を報いて奨励するという観点から「報奨」の用語を使用しています。
Step 7 意見の聴取
職務発明制度においては、発明者に対しては意見する機会を与えなければなりません(特35条5項)。そのため、予め意見書の提出先を定めておきます。そして、発明者は、報奨金の金額に疑義がある場合、知的財産部(又は発明審査会等)に意見書を提出します。意見書を受領した知的財産部は、意見の内容を検討して、金額を修正する場合には差額を発明者に支払います。一方、金額を修正しない場合には、その理由を記載した回答書を発明者に送付します。
なお、意見の聴取は、金額の計算時、すなわち報奨金の支払前に行うこともできます。この場合、発明者の意見を検討した上で、報奨金の金額を決定することになります。また、発明者と合意できない場合には、知的財産部が決定した金額を支払うと共に、その理由を記載した説明書を発明者に送付します。
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