権利行使に用いた特許の職務発明の対価請求に関して、無効理由があるとの評価が虚偽ではないとされた事例

判決集
職務発明 制度 職務発明規程 チワワ

・令和4年(ワ)第2695号『職務発明対価請求事件』

会社の従業員であった発明者が、対価請求権の消滅に合意した合意書の詐欺取消・錯誤無効無効を主張して職務発明の対価を請求した事件です。他社へ特許権を行使する前に会社が従業員へ伝えた評価内容(新規性がなく且つ回避容易であり牽制効果が低い)が、詐欺取消となるような詐欺行為(欺瞞行為)であったのか、及びそれにより従業員が錯誤に陥ったのかがポイントです。

事件の経緯

平成28年7月14日 :従業員は本件特許が報奨金支払対象となると会社へ通知
平成28年9月15日 :会社が評価結果(無効理由があり且つ回避容易)を従業員へ送付
平成28年10月31日:従業員が会社を退職
平成29年4月6日  :合意書(請求権の消滅に同意し、従業員へ30万円を支払う)を取り交わす
平成29年8月3日  :本件特許侵害を理由として、会社が訴外他社を提訴
令和2年9月30日  :訴外他社に損害賠償命じる判決が確定
令和3年8月24日  :従業員が対価を支払うように会社に催告

裁判所の判断

1.評価書について
評価書には、本件特許が全て無効であるとか、本件特許に抵触する競業他社の製品がないとか、競業他社に対する牽制効果が一切ないなどとは記載されていない
・評価書を提示するに当たり、意見があれば追加検証する旨を述べ、実際に、速やかに、自社製品の構造等を踏まえながら本件特許に従来技術が含まれると考える理由を補足して説明している。
会社の説明に対し、従業員は具体的な異論を述べておらず、その後に自己の見解(本件特許には抑止力がある)を述べつつも、自ら再交渉を申し出て、会社に承認手続等を依頼している
・従業員は、評価書の内容を理解し、会社の評価を示したものにすぎないことを認識しながら、会社の提案を受けないという選択肢がある中で、今後の紛争を防止する趣旨で一時金(30万円)の支払をもって請求権を清算する旨の合意を締結したといえる。
・訂正前の本件特許等について、無効理由が含まれている、他社による抵触回避が容易、他社牽制等に役立っているとは言い難い、及び報奨金等の対象外という評価書の内容は、合意当時の会社の認識と異なるとか、虚偽であるものとは認められない

2.欺瞞行為及び錯誤について
・会社が従業員へ評価書を提示し、従業員の問い合わせに対しても評価を変更しないまま、合意を締結した行為について、「欺罔行為」と評価される点はなく且つ会社に欺罔の意図はなかった
・従業員は、評価書の内容を理解し、合意を成立させることを受け入れ、合意に至ったのであるから、合意に係る意思表示について錯誤はなかった
合意は有効であり、対価請求権は30万円の支払をもって消滅している

コメント

タイトルとURLをコピーしました