・令和2年(ネ)第10004号『特許権侵害差止等請求控訴事件』
共有特許権の権利者の一部が単独で損害賠償請求をした事例です。原審(大阪地方裁判所平成29年(ワ)第7532号)と同様に、特許権の侵害が認められました。本件で、珍しいのは、二人(二法人)が共有していた(正確には、侵害行為が継続していた期間の一部で共有状態であった)特許権について、一人の者が損害賠償請求を行っている点です。そのため、特102条2項の推定による損害額(侵害者が得た利益の額)のうち、覆滅される部分が争いとなりました。
結論としては、『侵害者が侵害行為により受けた利益の額のうち、他の共有者の共有持分権の侵害に係る損害額に相当する部分については、特102条2項による推定が覆滅される。』です。
裁判所の判断
1.特73条2項は、各共有者は他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる旨規定しているから、各共有者は自己の持分割合にかかわらず、無制限に特許発明を実施できる。
2.そのため、特許権の共有者は、自己の共有持分権の侵害による損害を被った場合には、侵害者に対し、特許発明の実施の程度に応じて特102条2項に基づく損害額の損害賠償を請求できる。
3.特102条3項は特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定である。そのため、特許権の共有者に侵害者による侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在しないために、特102条2項の適用が認められない場合であっても、特許権の共有者は、自己の共有持分割合に応じて特102条3項に基づく実施料相当額の損害額の損害賠償を請求できる。
4.共有者の一部が単独で特102条2項に基づく損害額の損害賠償請求をする場合、侵害者が侵害行為により受けた利益は、他の共有者の共有者持分権の侵害によるものを含む。したがって、侵害者が侵害行為により受けた利益の額のうち、他の共有者の共有持分権の侵害に係る損害額に相当する部分については、特102条2項による推定が覆滅される。
5.よって、特許権が他の共有者との共有であることを、侵害者が主張立証したときは、特102条2項の推定に基づく損害額は、他の共有者の共有持分割合による特102条3項に基づく実施料相当額の損害額の限度で覆滅される。また、他の共有者が特許発明を実施していることを、侵害者が主張立証したときは、特102条2項の推定に基づく損害額は、他の共有者の実施の程度(共有者間の実施による利益額の比)に応じて按分した損害額の限度で覆滅される。
なお、特許権者は、侵害者が複数いる場合にそれぞれの損害賠償債務が不真正連帯債務となることを理由に、権利者が複数いる場合のそれぞれの損害賠償債権が、不真正連帯債権になると主張しました。しかし、裁判所は、権利者が複数いることから直ちに損害賠償債権が不真正連帯債権になると解すべき理由がないこと等を指摘して、特許権者の主張を採用しませんでした。
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