mondに寄せられた質問なのですが、長くなるのでこちらで回答します。ことの経緯は以下のとおりで、AIが60点の意見書を書けないとして、内製化が進むかどうかという質問です。
私見ですがね
今までは「より良くより安くより早く」というニーズが評価されていました。しかし、今後は「より安くより早く」が評価されて、品質評価は投げ捨てられるだろうと予測しています。そもそも、「より良く」の部分が過剰に要求されていて、そもそも60点でよかったのです。そのため、60点で安く仕上がるなら内製化が進むだろうというのが、私の意見です。
何ならAIが品質も評価する時代になれば、人間が書いた明細書もAIが評価するので、品質面でも人間が劣る可能性もあります。
また、そもそも60点と90点の差を評価できる知財人材が減ってきており、今後のAI利用が進むにつれて、減少速度も加速すると予測します。一方で、AIが出力する意見書も点数が上がっていくでしょう。その結果、安く仕上がるなら内製化が進むだろうとも思います。
蛇足ですが、AIを過信して権利化を進めると、しばらくの間は訴訟で苦労するような気もします。AIに頼った判断では、あるものが特許発明の技術的範囲に属することは評価できても、他の部分が評価できない気がするからです。
弁理士はどうすればいいのか
今の状況を寿司で例えるならば、10年の修行で本手返しを極めたのに回転寿司が営業を始めたようなものです。となれば、棲み分けるか、付加価値を付けるか、同じ土俵で勝負するしかないでしょう。棲み分けるならば、本手返しを食べたい人や遠くの回転寿司に行きたくない人を相手にすればよいです。付加価値を付けるならば、回転寿司では提供されない地魚を提供するとは24時間営業にすればよいでしょう。また、同じ土俵で勝負するなら、価格を下げればよいわけです。
話を中間処理に戻すと、全ての出願人がAIで意見書を出力させるわけではないです。AIに意見書を出力させるまでの労力がコストに見合わない出願人を相手にすれば、AIと棲み分けることができます。今後は、これが増えると思います。
付加価値を付けるならば、ハルシネーションがないような根拠を付加するとかですかね。ただ、相手は調査もするし、翻訳もするし、特許戦術も立てるし、メールの文案も作るし、マクロだって作るという、付加価値の塊です。AIと差別化する付加価値が難しいところですね。
そして、同じ土俵で勝負するなら、中間処理を無料又は格安にするわけですね。こっちもAIを使えば価格で対抗できそうですが、いつまでも安くAIが使えるのか保証がないのが心配です。
あとは、弁理士にだけ使える方法として「ルールを変える」がありますね。分かりやすい案だと、法律を変えて「AI生成発明」の特許適格性を失わせるとか、権利期間を10年にするとかです。実際に、AI生成発明は自然人の寄与率が非常に低いケースがあり、発明に該当しないという解釈も可能だと思います。また、過剰に審査リソースを消費するようになれば、「AI生成発明」を無審査登録にして権利期間を短くするという法改正もあり得るでしょう。
現実的にこれをやるならば、非課税者に50000件くらい出願させて、審査請求料の免除を受けて全件審査請求ですかね。弁理士会が全力を尽くして7億円なら不可能ではないかな?もしくは、構成要素一つずつ増やした請求項を1000項作って、カテゴリを100個に分けた合計10万項の特許出願を100件くらい審査請求するとか。これらは過剰に審査リソースを消費するので、毎年これをやれば法改正も夢じゃなさそう。
冗談はさておき、ルールに関しては、意見書の評価基準を変えるのが現実的ですかね。一例としては、ハルシネーションの少なさを基準にするルールです。
結局、本手返しが凄くても、顧客が欲しないなら無価値なんですよね。いや、本手返しはすごいんですけど、必要とされない技能は失われていく運命というか・・・ねぇ。
ただし、中間処理の技能の話をすれば、現状で弁理士が技能を喪失するのは悪手だと思います。なぜなら、武器や防具として使う権利の評価を謎の他人(AI)に委ねてはならないからです。そのため、AIを使いながら技能を承継する教育の仕組みが必要だと思います。使わない技能は、5年位で失われますからね!!
でもAIを使うんでしょ?
仮に出願人がAIを使用して出力した意見書が60点でも、弁理士が60点から90点にして納品するようになっていくはずです。PCが当たり前のツールになって、「PCを使える弁理士」が無意味な付加価値となった時代がありました。同じように、「AIを使える弁理士」の付加価値も、あっという間になくなると予言します。ですので、結局弁理士が使うか出願人が使うかの差にしかならなくなるでしょう。
このときに、内製化が維持されるかというと・・・ここはかなり疑問です。ここまでくると、AIを利用した意見書作成は、社内の人事評価では無価値な業務となります。現在の「意見書を電子化する」業務ぐらいの価値になるでしょう。多少の時間は必要になるので、無価値な業務にいつまでも貴重なリソースを割いたりしない気がするのです。ここで、出願人がAIを使用して出力した60点の意見書の清書(ハルシネーションの有無をチェックする業務)が外注される流れになる予感があるのです。



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