全体意匠と部分意匠の利用
部分意匠と全体意匠について – 初学者
2013/09/02 (Mon) 22:36:39
意匠法について質問があります。
先願 甲さん 熱交換器の取り付け部分αに係る部分意匠権を所有 物品は熱交換器
後願 乙さん 熱交換器βの全体意匠権を所有 物品は熱交換器
乙さんの願書に添付した熱交換器の図は甲さんの願書に添付した図に記載された熱交換器の
点線部と実線部をすべて実線部にしたようなものだとします。
ここで、甲さんが熱交換器を製造販売したとします。その熱交換器は乙さんの全体意匠β
と同一なものでした。このとき、甲さんは自己の意匠を自由に実施できるのでしょうか?
それとも後願者乙さんの全体意匠権に抵触して、実施できないのでしょうか?
後願者乙さんは、甲さんの部分意匠を利用することになるから、26条で調整されて
実施できないというのはわかるのですが・・・
このような場合、甲さんが実施できないなら、部分意匠って何の意味があるのでしょうか?
他人の実施を防ぐだけで、自己の自由な実施を確保するには無力で部分意匠は
防衛を目的としたような位置づけなんでしょうか?
Re: 部分意匠と全体意匠について – 白服 URL
2013/09/02 (Mon) 23:53:57
こんにちは。白服です。
その場合、甲さんは自己の意匠を自由に実施することはできません。先願であるという理由で後願の意匠を実施できるわけではありませんので。
部分意匠の意匠権を取得する意味は、部分意匠の趣旨のとおりです。これは初学者さんもご存じのとおりでしょう。初学者さんの例では、甲さんが実施する意匠がたまたま乙さんの全体意匠と同一なので甲さんが実施できないだけです。全体として非類似な意匠であれば実施可能です。
この例では、甲さんは、出願戦略が稚拙でしたね。乙さんの全体意匠が登録になったということは、甲さんが破線で示した部分は、ありふれた形状ではなく、新規で創作非容易な形状であったということです。たいへんもったいないことです。
つまり、甲さんは、部分意匠の出願と同時に、全体意匠の出願もすべきでした。
Re: 部分意匠と全体意匠について – 管理人
2013/09/04 (Wed) 12:05:29
白福さん
回答へのご協力ありがとうございます。
さて、ご質問ですが、乙さんの意匠権に無効理由がないという前提でお答えします。
甲さんは、自己の意匠と同一又は類似の意匠を実施したとしても、後願意匠権を侵害しないと解されます。
言い換えると、意26条の趣旨である先願優位の原則により、甲さんには、自己の意匠権に基づく抗弁権が認められると考えられるからです。
但し、その他の部分によって全体の美感が大きく異なるような場合に、先願意匠権者が後願意匠を実施する場合、両意匠は非類似となり該抗弁権は否定されます。
で、根拠として判例があったような気がしたのですが見つかりませんでした。
代わりといってはなんですが、昭和 46年 (ワ) 9319号を挙げておきます。
http://isho.hanrei.jp/hanrei/ds/5174.html
以下の理由で、後願に係る意匠権に抵触する実用新案権に係る考案の実施を認めた事例です。
「本件意匠権と本件実用新案権とは抵触するものである・・・この場合、本件意匠権及び本件実用新案権は、それぞれ、意匠法第26条1項、実用新案法第17条の各規定によつて同規定の定める制限を受けることがあるのは格別、両権利の権利者は、互いに、他方の権利により制約されることなく自己の権利の実施をすることができ、したがつて、本件実用新案権の実施は、本件意匠権の存在にかかわらず、本件実用新案権に基づく権利の行使として許容される・・・けだし、実用新案権はその内容である考案を、意匠権はその登録意匠を、各独占・排他的に実施することができる権利であり、法上に特段の定めがないのにその権利の効力を制限することは実用新案権及び意匠権の本質に反するからである。・・・なお、本件登録意匠の意匠登録出願は本件実用新案権の登録出願の日の後である関係にあることは・・・明らかであるから、本件実用新案権及びその実施権者については、実用新案法第17条の規定の定める制限を受けることもないものである。」
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