全長8μmの粒子の意匠が登録される理由

8μmの登録意匠

意匠ウォッチbotさんのTweetを目にして、意匠審査官がやっちまったと思い、つい次のようにつぶやいてしまいました。

というのは、私のTweetでも言っているように、工業上利用できる意匠に該当するためには、「意匠登録出願されたものの全体の形態が、肉眼によって認識することができる」必要があり、そうでないと拒絶される(意匠登録されない)からです。
意匠は物品のデザインであり、これが購買意欲を掻き立てる結果、産業の発展に寄与するという建付けですので、目に見えないほど小さければ意味が無いというわけです。

意匠審査基準にも
視覚に訴えるものと認められないものの例
①粉状物又は粒状物の一単位

その一単位が、微細であるために肉眼によってはその形態を認識できないものは、視覚に訴えるものとは認められない。
と明記されています。
これは、弁理士・・・というか受験経験がある方なら常識ですね。
というわけで、8μmの登録意匠なんて審査ミス以外ありえないだろうと早合点したわけです。

8μmの意匠が登録される理由

しかし、よくよく調べてみるとこれはどうも意匠の審査実務ではおかしくないようです。
ポイントは、意匠登録1609590号の【意匠に係る物品の説明】 にあります。
当該欄には「・・・本物品は、電子顕微鏡などで拡大した図を用いて取引が行われる。・・・」との記載があります。

つまり、当該登録意匠は金属含有粒子という物品のデザインであり、電子顕微鏡などで拡大した図を用いて取引が行われるため、拡大した粒子の形態が購買意欲を掻き立てる結果、産業の発展に寄与することになるというわけです。
・・・なんだかこじつけのような気もしますが、例えば宝石等の取引において拡大鏡を用いた拡大観察をして取引が行われる状況を考えると、理解はして頂けると思います。
ちなみに、実際の所どうなのかというと、粒子というジャンルの製品のカタログには粒子の拡大写真が含まれていました。
というわけで、実際に取引の場面では拡大図が用いられているようです。

とはいえ、意匠審査基準上での根拠がどこにあるのか気になりますよね。
ということで探しましたが、おそらくは意匠審査基準「第2部 意匠登録の要件 第2章 新規性」が根拠となるのでしょう。
具体的に当該箇所には、
肉眼によって認識できないものであっても、取引の際、拡大観察することが通常である場合には、肉眼によって認識できるものと同様に扱う。
と記載されています。
そのため、通常拡大観察が用いられる場合には、例外的に「粉状物又は粒状物の一単位 」であっても意匠登録されるわけですね。

実際に訴訟になったらどうなるの?

ただ、取引の実情を考慮したとしても目に見えないほど小さい物品の意匠が有効なのかは疑問に感じると思います。
この点、侵害訴訟ではないのですが、肉眼による認識できないものについては、平成17年(行ケ)第10679号「審決取消請求事件」で争われています。

当該事件において、裁判所は
意匠に係る物品の取引に際して,現物又はサンプル品を拡大鏡等により観察する,拡大写真や拡大図をカタログ,仕様書等に掲載するなどの方法によって,当該物品の形状等を拡大して観察することが通常である場合には,当該物品 の形状等は,肉眼によって認識することができないとしても 「視覚を通じて美感を起こさせるもの」に当たると解する
と判断しています。
つまり、カタログなどに拡大写真が掲載されるような物品であれば、粒子であっても有効に意匠登録されるということですね。

ちなみに、裁判所は専ら不良品の有無等を検査するために拡大図を添付しているような事例に関して、美感を起こさせるものであるかどうかという見地から拡大観察するものではないと判断しています。
そのため、争いになれば取引の実情も考慮されるので、権利としての安定性にはやや不安があると言えます。

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