珍しい知財判決集 平成28年

珍しい知財判決集 平成28年
平成28年(行ウ)第374号:平成28年12月21日判決言渡
「特許査定義務付け等請求事件」
特許査定をせよ、拒絶理由通知書送達は無効だ、及び拒絶査定を送達するな等を求めた事例。通常の所要期間を経過していないので、特許査定されていなくとも訴訟要件(行訴37条の3第1項第1号)を満たさないとして、「特許査定をせよ」の要求は不適法とされた。また、拒絶理由書等の送達に関する要求は、権利義務に直接具体的な影響を及ぼさないため、処分性を有さず、「処分又は裁決」(行訴36条)を対処としてないため、不適法とされた。
なお、拒絶理由通知書の作成までの期間が通常の所要期間を徒過していた、又は不当に長期であったならば、査定を求めることはできそう。
平成27年(ワ)第17928号:平成28年9月15日判決言渡
「発信者情報開示請求事件」
リツイート行為(インラインリンク)は、公衆送信権、複製権、同一性保持権及び氏名表示権を侵害しないとされた事例。本件では、氏名不詳者がアカウントのプロフィール画像として、職業写真家が撮影した写真を使用していた。このプロフィール画像設定行為、及び氏名不詳者によるツイート行為は、公衆送信権を侵害するとして発信者情報の開示が認められた。一方、このツイートに対するリツイート行為は、これによりタイムラインのURLにリンク先であるURLへのインラインリンクが自動的に設定され、同URLからユーザーの端末に直接画像ファイルのデータが送信される(写真の画像ファイルは複製されない)として、公衆送信権及び複製権等の侵害が否定された
平成28年(ネ)第10057号:平成28年9月13日判決言渡
平成27年(ワ)第28086号:平成28年3月3日判決言渡
「損害賠償等請求控訴事件」
宇多田ヒカルさんのCDアルバム「First Love」について、「囁き系がいいや」等と伝達して創作に関与したとして共同著作者としての氏名表示などを求めた事例
原告は、チャット機能又はメール機能を使用して被告のスクリーンネームであるA又は同人のメールアドレスであるA@aol.com に文章を伝達した旨主張したが、被告がこれらアドレス等を使用していた証拠がないとして請求が棄却された。なお、原審で原告は、「なあ,今度のアルバムさあ。新宿で電車乗って,明大前にさしかかるところで,思いっきり寝れるように,子守歌系のやつ創って入れてよ」,「囁き系がいいや」と伝達したのに対して、これに依拠した内容を反映している等と主張している。有名税とはいえ怖い。
平成28年(ラ)第10013号:平成28年8月10日判決言渡
「移送決定に対する抗告事件」
投擲型消火器の詐欺において、不法行為の内容に「特許を持っている」などの虚偽説明があるのみでは特許権に関する訴えに該当しないとされた事例
さいたま地方裁判所川越支部での詐欺に対する損害賠償請求訴訟(基本事件)における原告主張は、特許を持つなどの被告の虚偽説明を信じて支払に応じたというものであった。知財高裁は、「特許権に関する訴え」は、特許権侵害を理由とする差止請求訴訟や損害賠償請求訴訟、職務発明の対価の支払を求める訴訟、特許権の専用実施権や通常実施権の設定契約に関する訴訟、特許を受ける権利や特許権の帰属の確認訴訟、特許権の移転登録請求訴訟、特許権を侵害する旨の虚偽の事実を告知したことを理由とする不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟等を含むと解した上で、欺罔行為の内容として「特許」という用語が使用されているだけで、「特許権に関する訴え」に当たるということはできないとして、東京地方裁判所に移送するの旨の職権決定を取り消した。
平成27年(ネ)第10061号:平成28年7月19日判決言渡
平成24年(ワ)第25935号:平成27年3月18日判決言渡
「補償金請求控訴事件」
無効理由が存在すると主張する一方で特許料を納付した行為は矛盾するので、当該主張は信義則上許されないとされた事例
特許を受ける権利を承継させたことに対する相当の対価を請求した事件である。知財高裁は、出願時に発明者性を肯定し又は最優秀発明者賞を授与しながら訴訟においてはこれを否定した会社の主張について、発明者の認定判断の再検討が行われないまま出願に至ったものと合理的に推認されるとして、信義則に反するとはいえないと判示した。一方、相当の対価の額に関しては、特許料を納付する一方で発明に無効理由が存在すると主張した会社の主張について、矛盾することは明らかであるとして、信義則上許されないと判示した。
平成27年(ワ)第13006号:平成28年3月29日判決言渡
「職務発明補償金請求事件」
特許を受ける権利を譲渡する旨の契約に「相当の対価の支払を求める権利を有していないことを確認する」旨の条項があったことを理由に、職務発明の相当対価請求権を放棄したと判断された事例。本件契約には、「両当事者は,本発明が職務発明であり,本条の対価が,本発明により甲が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて甲が貢献した程度を考慮して定められたものであり,乙は,特許法第35条3項に基づいて,本条の対価以外に,相当の対価の支払を求める権利を有していないことを確認する」との条項があり、発明者がこれに署名押印していたために、対価請求権を放棄したと判断された。
契約だと、こういうやり方も有効だと思いました。
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