珍しい知財判決集 平成24年
平成23年(行コ)第10004号:平成24年12月25日判決言渡
平成21年(行ウ)第417号:平成23年9月15日判決言渡
手続却下処分取消請求事件
北朝鮮の国籍及び住所を有する者によりされた国際特許出願が、日本において国際出願日にされた特許出願とみなされるか否かが争われた事例。未承認国である北朝鮮に在住する北朝鮮国民によって行われた国際特許出願によっては、日本と北朝鮮との間に多数国間条約であるPCTに基づく権利義務は生じないとして、北朝鮮における発明の保護を図るためにPCT上の国際出願として取り扱うべき義務を負うものではないとされ、特許庁の処分を肯定した。
なお、高裁では特許を受ける権利を承継した者が参加した。これについて、特許庁長官への届出なくとも(出願後の承継は届出が効力発生要件)、仮に届出がされても手続却下がされることが明らかな場合においては、届出がなくとも特許出願に関する権利及び訴訟を追行する地位を譲り受けた参加人は、手続却下処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有すると判示された。
平成24年(行ウ)第383号:平成24年12月6日判決言渡
「特許分割出願却下処分取消請求事件」
平成12年に出願された基礎出願に係る平成23年に特許された孫出願について、特許査定後に分割出願してしまった事例。出願却下の処分の取消を求めた原告(出願人)は、子出願が平成22年に出願されていることを根拠に平成18年改正法(査定後の分割も認められる)が適用されると主張した。しかし、平成14年改正法(補正可能期間内の分割のみが認められていた)において「施行日以後にする特許出願であって、施行日前にしたものとみなされるものについては,平成14年改正法による改正後の特許法の規定が適用される」旨の附則がある一方、平成18年改正法の附則では施行日前にしたものとみなされるものについて「従前の例による」とあったために認められなかった。なお、平成14年改正法とは違い、平成18年改正法はその施行日以後の出願日に係る特許出願について適用される。
平成24年(行コ)第10006号:平成24年11月19日判決言渡
平成23年(行ウ)第728号,同第729号:平成24年7月20日判決言渡
「出願取下げを削除する手続補正書却下の処分に対する処分取消請求,既納手数料返還請求書却下の処分に対する処分取消請求控訴事件」
出願取下後、審査請求手数料の返還請求可能期間経過後に行った出願審査請求手数料返還請求の却下の取消(第2事件)と、審査請求料が返還されないため出願取下書の全文を削除して取下書を取り下げようした(ややこしい!)補正却下の取消(第1事件)を求めた事例。
第1事件:出願人は、発明の価値の評価を誤り、審査請求料の半額以下になったと思い違いをしたために出願を取り下げたものであるから、動機の錯誤に当たり民法95条により無効である等と主張したが、取下書の全文を削除するとして提出した補正書は、特許庁に係属していない手続について補正をしようとするものであるから不適法なものであるとされた。
第2事件:出願人は、審査請求料を返還しないことが不当利得に該当する等と主張したが、出願審査請求料の返還は過誤納の手数料の返還とは異なる手続であって、出願審査請求手数料返還請求書では求めることができず、返還請求書に係る手続は不適法であるとされた。
平成23年ワ第5742号:平成24年11月8日判決言渡
「損害賠償等請求事件」
特許権者(原告)に対して、冒認出願を理由として商品に特許表示を付すことの中止を求めた者(被告)が逆に不正競争で訴えられた事例・・・何を言ってるのか分からないと思うが、俺も何を言っているのか分からない。被告に対して、「国際的な特許で保護」という表示等を広告宣伝に使用してはならない旨の判決が出た。なお、被告の広告宣伝に係る米国・独国の特許権は特許料不払により消滅していた。
また、「特許発明の実施品ではなくなったにもかかわらず、国際的な特許で保護されている、特許を取得している専用のワイヤーであるといった表示を付し、少なくともいずれかの国・地域の特許発明の独占的実施品であるかのような情報を需要者に提供したものであるところ、かかる行為は、「品質」を誤認させるような表示をした不正競争行為(不正競争防止法2条1項13号)に該当する」と判示された点が注目される。
平成24年(行ケ)第10248号:平成24年10月31日判決言渡
「審決取消請求事件」
拒絶審決の取消訴訟において、出願人が請求項1に進歩性がないことを認めつつ、請求項3~10は進歩性を有すると主張した事例。過去の判決から「複数の請求項に係る特許出願であっても、特許出願の分割をしない限りその特許出願全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をする」という取り扱い(つまり、複数請求項の1つにでも拒絶理由があれば拒絶査定となる)は、よく知られていたが、本事例はこの部分を直接争っている。もちろん「一部の請求項に係る発明について特許をすることができない事由がある場合には、他の請求項に係る発明についての判断いかんにかかわらず、特許出願全体について拒絶査定をすべきことになる」と判示された。
平成24年(ネ)第10058号:平成24年10月30日判決言渡
平成23年(ワ)第37073号:平成24年5月31日判決言渡
「職務発明の再譲渡請求事件」
特許を受ける権利は会社に譲渡したが、退職の時点で発明者に再度帰属するに至ったとして、会社都合で退職した発明者が、職務発明の再譲渡(正確には特許を受ける権利の帰属確認)を請求した事例。会社都合で退職した場合に、特許を受ける権利を従業員に譲渡する又は帰属させる条項は存在しないとして、請求は認められなかった。また、控訴審における、退職後に特許出願手続に関与できなくなることは会社と従業員間の対等性を欠くので職務発明の承継は無効であるとの主張も、退職後に関与できなくなる可能性があることは当然であると判示された。いずれも、職務発明に関わる訴訟としては珍しい主張である。
平成24年(ネ)第10053号:平成24年10月10日判決言渡
※原審 横浜地方裁判所小田原支部平成23年(ワ)第952号
「訂正公告掲載請求控訴事件」
週刊誌に商品紹介記事が掲載されたことに関し、当該商品の著作者又は著作権者であると主張する原告が、著作者又は著作権者について事実と異なる表現をして著作権若しくは著作者人格権を侵害、又は名誉を毀損したとして、訂正広告の掲載を請求した事例。製品をめぐる権利関係について何ら記載がなかったこともあり、著作権又は著作者人格権が侵害されたということはできないと判示された。・・・予想もしない所から訴えられることってあるんですよね。
平成23年(ワ)第9722号:平成24年9月28日判決言渡
「損害賠償等請求事件」
霊言が著作物であるか否かが争われた事例。降霊について「文殊菩薩の霊が原告代表役員に降霊したという設定」と、霊言について「発言をみても、霊言は、原告代表役員の個性が表現されているといえるのであって、思想又は感情を創作的に表現したものである」と判示しているのが面白い。それにしても・・・幸福の科学さんは霊言=創作物でいいのかな。
平成24年(行ケ)第10009号:平成24年9月19日判決言渡
「審決取消請求事件」
遠心力のみを応用して推進力を発生させて浮上する推進力発生装置・・・つまり空飛ぶ円盤に係る発明について拒絶審決の取り消しを求めた事例。ただそれだけ。なお、対象となった出願は、特開2012-137082(特に図17-18をご覧いただきたい)
平成24年(行コ)第10001号:平成24年9月19日判決言渡
平成23年(行ウ)第514号:平成24年2月16日判決言渡
「決定処分取消請求控訴事件」
①翻訳文提出特例期間の経過後に翻訳文を提出→②日本における国際特許出願が取り下げ擬制→③優先権主張の取下書提出という手続きを経て、優先日を国際出願日に繰り下げたことにより翻訳文提出特例期間の経過前に翻訳文を提出したことになると主張した事例。正直『その発想は無かった!』と思ったけど、「出願人が取下書を提出した時点においては、出願が既に取り下げられたものとみなされているから、優先権主張の取下げを含む特許庁における法律上の手続をすることはできない」として、やっぱり認められなかった。
平成24年(行ケ)第10019号:平成24年5月31日判決言渡
「審決取消請求事件」
当該訴訟に係る商標を使用した店舗の開店に関する記事が掲載された後に出願され且つ登録された商標について、その有効性が争われた事例。商標権者は個人でありながら2年半という短期間に44件もの商標登録出願をし且つ登録を受けていながら使用した形跡が無く、さらにそれらを使用している店舗ないし会社が存在するという・・・「The 剽窃」とも言える状態。この状態で何故無効審判で使用意思(商3条1項柱書)が認められたのかは疑問だが、訴訟においては使用意思が否定され無効と判断された。「多岐にわたる指定役務について商標登録出願をし、登録された商標を収集しているにすぎない」という評価もされているけど、商標権コレクターってこと?
平成24年(行ケ)第10021号:平成24年5月30日判決言渡
「審決取消請求事件」
新規事項追加補正を理由とする拒絶審決の取消訴訟において「新規事項の追加の禁止は、「第50条の規定による通知」(拒絶理由通知)を受けた後にのみ妥当する」と主張したが認められなかった事例。拒絶理由通知前の補正であれば新規事項追加が認められるという主張がされたのは初めてではなかろうか。
平成23年(行ケ)第10337号:平成24年5月16日
「審決取消請求事件」
永久機関に関する物理学界の常識を破る画期的な発明(特開2008-029182)に関して、拒絶審決取消訴訟までいった事例。原告がその根拠として指摘した周知例(特開昭53-28213)を、エネルギー保存の法則に反するものであって科学的合理的な根拠が開示されているものではないとして一蹴している。
平成24年(ネ)第10007号:平成24年5月16日判決言渡
平成23年(ワ)第3102号:平成23年10月24日判決言渡
「損害賠償請求控訴事件」
本人出願について、中間手続きより中途受任した弁理士が拒絶理由を回避できなかった結果、債務不履行を理由に出願人から訴えられた事件。原告の請求は棄却されており、新規事項追加ギリギリの補正をする以外に拒絶理由を解消することは困難であると思われる。なお、控訴審判決文では「弁理士がした補正は、全面的な補正の必要性が認められ、やむを得ないものであったと解されるのみならず、出願人の承諾に基づいて補正書が作成されたものと認められる」、「審査官と面談し特許査定する旨の合意が得られたこと自体、弁理士による大きな成果と評価し得る」旨が述べられている。
ところで、「考案の価値に相当する額の損害賠償を請求しているところ、これが認められるのは登録をされる蓋然性があった場合に限られる」、「委任者による指示がないにもかかわらず、拒絶査定不服審判請求をする一般的な注意義務を弁理士が負うものと認めることもできない」旨の判示も興味深い。
それにしても、この内容で拒絶査定となったからといって訴えられるとは・・・恐ろしい事件である。
平成23年(行ケ)第10325号:平成24年4月26日判決言渡
審決取消請求事件
拒絶理由通知書に「意見があれば,この通知書発送の日から60日以内に意見書を提出してください」と記載されていたため、意見書において「・・・に変更したのを取り消す」等と記載し、その返答を待っていたにも拘わらず、拒絶査定がなされたのは不意打ちである等と主張して拒絶審決の取り消しを求めた事例。本件においてはいわゆる新規事項追加の拒絶理由が通知されていたが、意見書の中で補正の意向が示されていたとしても、実質的に手続補正がなされていたということはできないと認定し、拒絶審決を維持した。
当然と言えば当然だが、意見書の中で補正の意向が示されていたとしても手続補正の効果は生じないからね。
平成24年(ネ)第10009号:平成24年4月11日判決言渡
平成22年(ワ)第5063号:平成23年11月8日判決言渡
「特許権移転登録手続請求控訴事件」
債権者による差押えを免れることを目的の1つとして行われた特許を受ける権利の譲渡が、通謀虚偽表示又は錯誤により無効であるか否かが争われた事例。事業の継続が譲渡の主たる目的であるとして、特許を受ける権利の帰属を変更するという法律効果を発生させる意思を有していたものと認められ、表示されたとおりの効果意思に欠けるものではなく虚偽の意思表示によってされたものということはできないとされた。ところで、譲渡の無効を訴えてるのって特許を受ける権利を譲渡した会社なんだよね・・・偽装譲渡の約束だったんだから返せよってことか。
平成23年(ワ)第2978号:平成24年3月22日判決言渡
「損害賠償請求事件」
汎用養生蓋ユニットに係る発明(特開2008-031709)※出願人は株式会社京都知財倶楽部。その主な事業内容は、アイデアの知的財産化、知的財産の事業化、ベンチャー企業の支援。 に関して、出願人である被告が特許を受ける権利を詐取したこと、無断で国際出願をしたこと、及び無断で関連出願をしたことが不法行為になるのかが争われた事例。原告(発明者)の無知を奇貨として特許を受ける権利を詐取したことが認定されたが、原告が出願国において特許を取得する意思、事業をする予定等がないことから、財産的損害は否定された。なお、慰謝料は認められている。
平成23年(行ケ)第10406号:平成24年3月8日判決言渡
「審決取消請求事件」
審判段階における拒絶理由通知に対する意見書の提出期限が適法に3月延長されたにも関わらず、延長後の提出期限の約2か月前に審理終結通知がされ、延長後の提出期限前に拒絶をする旨の審決がされた事件です。当然ですが、手続違背の違法があるとして審決が取り消されました。特許庁様の言い分「審理終結通知書が原告に対して発送されており・・・意見書提出の意思があったのであれば,審理終結通知書が発送された時点で,特許庁に対して,確認,上申書提出などの行為をなし得たはずである。」がとてもヒドイ。
平成23年(行ケ)第10416号:平成24年2月29日判決言渡
「審決取消請求事件」
判決文が非常に短い(552字)。ただそれだけ。
平成23年(行コ)第10001号:平成24年2月7日判決言渡
平成22年(行ウ)第304号:平成23年1月28日判決言渡
「審査結果無効確認及びその損害賠償請求控訴」
国際予備審査機関の見解書及び国際予備審査報告書が無効な審査に基づくものであるとして、①損害賠償金の支払、②審査結果が無効であることの確認、③再発防止の義務付けを求めた事案である。しかし、国際予備審査が国内法令から独立し、予備的かつ拘束力のない見解を示すものである点、審査官が職務上尽くすべき注意義務を尽くしていない事情が認められない点から、原告の請求が棄却された。なお、国際予備審査報告書及び国際予備審査機関の見解書は、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」にも、「審査請求、異議申立てその他の不服申立てに対する行政庁の裁決、決定その他の行為」にも該当しない旨が判示されているのは興味深い。
平成23年(行ケ)第10270号:平成24年1月31日判決言渡
「審決取消請求事件」
「赤い可視光線と不可視光線の近赤外線を透過する帽子」の発明について争われた事件・・・「赤い帽子事件」と命名したい。原告は、審判において新たな引用文献を示して拒絶理由が通知され、当該拒絶理由で拒絶審決となったことは手続的違法であると主張したが、当然認められなかった。
平成23年(ネ)第10052号:平成24年1月31日判決言渡
平成21年(ワ)第31755号:平成23年7月29日判決言渡
「損害賠償等請求事件」
仏像の入れ墨が著作物か否かが争われた事件の控訴審。墨の濃淡等によって表情の特徴や立体感を表すための工夫がされている点等を総合すると、思想感情の創作的な表現がされているとして、原審と同様に著作物性を肯定した。・・・893な方々は今後大変だね。
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珍しい知財判例集NewNew平成23年(行ケ)第10256号「審決取消請求事件」:平成23年12月20日判決言渡「本認められなかった事例。不明瞭用語のオンパレードなので、拒絶審決は止む無しかな。平成23年(行ケ)第10406号:平する意見書の提出期限が適法に3月延長されたにも関?…
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