生成AIと知財業界

ブログ
特許法 独学 チワワ

本日7月1日は弁理士の日です
今年も弁理士の日を勝手に盛り上げるために、
弁理士の日記念ブログ企画2025」と銘打って
知財系ブロガーの皆様にご協力いただき、共通テーマで記事を書いております
そして、今年のテーマは「生成AIと知財業界」です

生成AIを利用すると新規性喪失するの?

さて、日本弁理士会はいち早く「弁理士業務AI利活用ガイドライン」を公開し、
その中で「秘密保持規約のない第三者のプラットフォームに情報を載せた場合には新規性を喪失する可能性がある。」と言っています
しかし、個人的には、秘密保持規約のない第三者の生成AIプラットフォームに情報を入力したとして(以下、単に入力行為という)、原則として新規性は喪失しないと考えています。

なお、弁理士会のガイドラインでも「可能性がある」と言っているだけであって、私も入力行為で新規性を喪失する可能性があることは否定しません
例えば、入力した発明が学習に使用されて第三者に出力された場合には、新規性を喪失することになります
したがって、ガイドラインの記載が間違っているわけではないです
ただ、ことさらに「秘密保持規約」という言葉を足すことによって、これが必須の要件であるような雰囲気を出しているのが気になるだけです

さらにさらに、念のために付言すると、入力行為で新規性を喪失しなかったとしても、クライアントに対する守秘義務に反する可能性があります
少なくとも、クライアントに説明せずに入力行為を行うことは、誠実な行為ではないと思います

特29条1項1号

入力行為のみで新規性を喪失するとすると、適用される条文は特29条1項1号です
具体的に同号は、「特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明」について、特許を受けることができないと規定しています
ここで、「公然知られた」は、現実に知られることを要するというのが多数説です
ただし、知られ得る状況に置かれた場合(例えば、内部に特徴がある発明品を分解可能な態様で譲渡した場合)には、知られたという推定が働いて新規性が喪失すると考えられます

なお、同旨の判決例として平成 16年 (ワ) 4339号があります
同判決では、分解又は解析をして発明を知ることができない場合に新規性の喪失を否定しており、逆説的に分解又は解析をして発明を知り得る場合の新規性の喪失を肯定しています
※「被告製品1を分解して解析しても,本件発明1の構成を知ることはできない・・・発明は出願前に公然実施されていたとはいえず,新規性を欠くとはいえない。」

一方、逆の判決として、平成 15年 (ワ) 9215号があります
同判決の傍論ですが、公然知られ得る状態にあった場合には公知が推定されて新規性を喪失するとしています
※「親出願は,本件分割出願の出願日の平成11年10月6日より前の同年8月4日に特許査定され,同月27日にはその登録がされたものである。そうすると,この時点から公然知られ得る状態にあったということができ,公然知られたことが推定されるのであって,これに反する証拠は認められない。したがって,本件特許発明は,特許法29条1項1号の規定に違反して特許されたものというべきである。」

で、生成AIを利用すると新規性喪失するの?

というわけで、多数説に従えば、入力行為だけでは第三者に知られることにはならないので、秘密保持規約のない第三者の生成AIプラットフォームであっても新規性は喪失しません
ただし、可能性がゼロではないですし、そもそも不誠実な行為ですから、クライアントの合意を得ずに入力行為を行うことは避けるべきでしょう

なお、仮に少数説の立場に立ったとしても、知り得る状態とは少なくとも「第三者が、発明を知ろうと思い、且つ知ることができた」場合に限定されると解釈しています
このように解釈しないと、用途発明が成立しなくなるからです
そして、入力行為の段階では発明の存在を認知できない第三者が、発明を知ろうと思うことがないので、知り得る状態にならない(新規性も喪失しない)という理解です
(発明を知ろうとする「リバースエンジニアリング」については、発明を知ろうと思う意思が肯定されるので除外されます)

上述の平成 16年 (ワ) 4339号についても、第三者による行為(分解又は解析)を要求しており、黙示的に発明を知ろうと思う意思を必要としていると考えます

新喪例を適用できるの?

ところで、新規性を喪失する可能性があるわけですから、新規性喪失の例外を適用できるんじゃないかと思って特許庁に問い合わせました
その結果、「ChatGPT等に発明の内容を入力した時点では、不特定の者が見られる状態ではありませんので、通常は、発明が公然知られたものとは認められず、発明の新規性喪失の例外規定の適用を受ける必要はありません。」だそうです
もちろん、「通常は」と言っているので、特許庁も「例外的に」新規性を喪失する可能性も否定はしていません

終わりに

いかがでしたでしょうか?
今回は生成AIと新規性の喪失について書いてみました

なお、今回の企画に関して他の参加者様の記事をまとめていますので、
弁理士の日記念ブログ企画2025」もご覧になって頂ければ幸いです

コメント

タイトルとURLをコピーしました