弁理士とは?-弁理士 松倉 秀実-

弁理士とは?
弁理士の日記念企画。
企まずして、松倉大先生に大トリを務めて頂くことになりました。
主役は遅れてやってくるとは良く言ったものです。
それでは、ご覧ください。
・弁理士の日(1日遅れ)記念寄稿
     「弁理士とは」(弁理士業務の市場性の視点から)
            慶應義塾大学
            大学院政策メディア研究科 特別研究教授
            弁理士 松倉 秀実
1.はじめに
ドクガクさん(@benrishikozaさん)から「7月1日の弁理士の日にちなんで何か書きませんか?」とのお誘いを受けて、書き始めた原稿(初稿)があまりにも過激すぎたので、私が専門としている「マーケティング」の視点からみた弁理士仕事と市場性についての文章に書き直してみました。そのために完成が1日遅れてしまったことをお詫びします。
2.弁理士の市場
弁理士のコア業務である出願代理案件が減少する一方、弁理士数は増加しており、受注競争が激しくなり特許事務所経営が成り立たなくなってきているという声をよく聞きます。そのため、どこの特許事務所でも営業を強化して、仕事の確保に躍起になっているようです。
さて、それでは弁理士の市場はどこにあるのでしょうか?
特許事務所に仕事を出す権限を有しているのは企業の知的財産セクションです。したがって、一義的には弁理士は企業の知的財産セクションに営業をかけることになります。この知的財産セクションの担当者の話をきくと、「毎日のように弁理士・特許事務所からの売り込みのメールや電話が来ている」(ある上場メーカー知財部長)とのことです。
さて、それではこのような状況の中で企業の知財セクションが弁理士・特許事務所を選別する基準は何でしょうか?概ね以下のような基準があるのではないでしょうか?
・品質の高い明細書作成
・早い納期
・技術の熟知
・安価な手数料
これらの条件を満たす事務所に仕事を依頼することで、彼ら(企業の知財セクション)は、経営から与えられたミッション(有効な権利を迅速にかつ安価に取得する)をこなそうとしているわけですね。
3.マーケティング視点からの弁理士と市場
企業の経営状況が厳しくなる中でこのミッションを達成するためには、結局のところ減少している依頼案件に対して、数多くの弁理士・特許事務所が集中して価格競争を繰り広げさせるため、市場がレッドオーシャン化しているわけです。かつては優秀な弁理士・特許事務所であれば費用は多少高くても仕事を依頼する企業もありましたが、今ではむしろそれは希になってきているようです。
さてここで弁理士業務をマーケティングの視点からもう一度見直してみましょう。マーケティングの世界では、まず自分たちの扱う商材が市場でどのような位置づけにあるのかを考えなければなりません。
「商材」=「出願案件の受任」と考えれば、ライバルに比べて質の良い商材(出願案件)を、迅速かつ安価に提供することが競争優位原則に叶うわけですが、この市場では必然的に競争を伴い、最終的には疲弊してしまいがちです。
商材と市場との関係を、マーケティングで使われるアンゾフのマトリクスという分析手法を使って考えてみましょう。この手法では「既存市場」、「既存商材」、「新規市場」、「新規商材」という4つのパラメータの組み合わせでマーケティング戦略を俯瞰することになります。
(1) 既存市場×既存商材
第1の類型として、既存市場に既存商材を投入する場合(知財セクションに対して出願代理の売り込みを行う場合)には、これは競争原理で勝ち抜くための規模の経済や徹底した効率化を図るしかありません。これが今知財業界を襲っている前述のレッドオーシャン状態ということになるわけです。
(2) 既存市場×新規商材
次に、第2の類型として、既存市場に新規商材を投入する場面を考えてみましょう。たとえば企業の知財セクションに対して、出願以外の仕事の受任を売り込むような場合がこれに該当します。既に特許調査だけを売りにしている弁理士や、訴訟専門の弁理士がいますね。この分野で活躍している先生方は、先駆者として尊重されしばらくの間は安泰であるともいえます。
(3) 新規市場×既存商材
第3の類型は、新規市場に既存商材を投入する場合です。つまり、企業の知財セクション以外の部門に対して出願代理案件の受任を売り込むパターンです。これが10年前のビジネスモデル特許ブームのときに起きた現象でした。このパターンでは、市場そのものが「知財」を的確に把握してその価値を最大限に発揮させることが必要です。ビジネスモデルブームのときには、市場がビジネスモデル特許の本質(実はコンピュータ利用ビジネスにすぎなかったということ)を知らなかったため、結局のところ「ビジネスモデル特許は使えない」とか、「弁理士にすすめられて出願したが権利化できなかった」という市場の不満が残る結果となりました。
(4) 新規市場×新規商材
第4の類型は、新規市場に新規商材を投入する場合です。たとえば、知財コンサル業務を知財セクション以外の部門(具体的には企業トップ、広報部門、戦略部門やマーケティング部門)に売り込むパターンですね。このときに重要なのはこの市場で顧客になるのは非知財専門家なので、これらの人たちに対して、弁理士の専門知識を、どこまで彼らが理解できる戦略的概念におきかえて説明できるかがキーポイントになります。たとえば、相手が広報セクションの担当者だとすると、知財が企業IRにとってどうして必要なのか、また知財の確保がステークホルダーに対してどの程度説得力があるツールなのかを説明できなくてはいけません。これらが成功してはじめて「コンサルタント」として迎え入れられるわけです。
4.ターゲティングとポジショニング
以上のように見てくると、類型(2)と(4)のような「新規市場」が魅力的なわけです。なぜならこれらの「新規市場」は間接部門としての知財予算で縛られているわけではなく、既存市場(知財セクション)よりも豊富な予算が割り当てられていることが多いためです。
しかし一方で、このような「新規市場」に対して営業を行う場合、その市場をターゲットとして自分がどのようなポジションでセールストークができるのか、つまり市場のターゲティングと自分自身のポジショニングとのマッチング(整合性)が重要になってくるわけです。これが失敗すると、即座に仕事を失うことになりかねません。既存市場(知財セクション)の既存商材(特許出願)の分野であれば1〜2件の36条違反は許されるでしょうが、新規市場(広報部門、戦略部門やマーケティング部門)にコンサルとして参画したところ、戦略を見誤って当該市場での企業価値を構築できない場合にはその企業の命取りになりかねません。その意味で、弁理士は自分の立ち位置(ポジション)がどこにあり、企業のどのターゲット部門と共通言語で会話ができるのか、あるいはできるようになりたいのかを研究して切磋琢磨しなければならないわけです。
私自身、マーケティングツールを駆使してそれらしくマーケット戦略を語るのはあまり好きではないのですが、伝統的な市場参入時の5F(5 Forces)理論、上記アンゾフのマトリクス、SWOT分析、CROSS-SWOT分析、ブルーオーシャン戦略、FREE等のように、マーケティング分野には知財コンサルとして使いやすいツールが数多く用意されています。経験的に私には、これらに弁理士としての専門である知財要因を加味して事業戦略を策定することで経営トップの理解を得られたケースがいくつもあります。ということは経営トップもこのようなマーケティング理論や経営理論を勉強しているはずなので、この共通言語のもとに話ができたことでプロジェクト単位のコンサル契約や、顧問契約が成立しているのだと思っています。
結局のところ、『「弁理士とは」今後どうあるべきか(弁理士の市場性から)』というタイトルの文章になってしまいましたね。本来の意味での文章は別の弁理士の方達がそれぞれのブログでアップロードしてくださっていますので、そちらを参照していただければ幸いです。
とりとめのない文章になってしまいましたが、これから新規市場を目指す若手の弁理士諸氏の励ましの一助にでもなれば嬉しい限りです。
以上
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コメント

  1. bit_ly/c6GHOQ より:

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    > 弁理士のコア業務である出願代理案件が減少する一方、弁理士数は増加しており、受注競争が激しくなり特許事務所経営が成り立たなくなってきているという声をよく聞きます。
    弁理士数が増加しているから特許事務所の経営が成り立たなくなった
    とは言えないと思います。弁理士数の増加は
    技術者が弁理士試験に合格したり、企業の知財部の人が
    合格したりしていていることに吸収されてて、
    特許事務所の数は増えていないのでは
    ないでしょうか?

  2. ドクガク より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    特許技術者と給与面で差をつける必要があるでしょう。
    そういう意味で、経営負担になることがあると思います。
    なお、企業内の「登録」弁理士の数は大きく増えてはいないようです。
    (未登録の試験合格者が多いということです。)
    ということは、弁理士数の増加は、
    事務所内弁理士の増加と略同義であると思います。
    また、合格した弁理士が営業活動を低価格での営業を行うことにより、
    価格競争も生じています。
    「質」で勝負すれば良いとのお話もよく聞きますが、
    業界相場を理由にするコストダウン圧力に対して、
    数値で評価できない「質」で評価してもらうのは至難の業です。
    > 弁理士数が増加しているから特許事務所の経営が成り立たなくなった
    > とは言えないと思います。弁理士数の増加は
    > 技術者が弁理士試験に合格したり、企業の知財部の人が
    > 合格したりしていていることに吸収されてて、
    > 特許事務所の数は増えていないのでは
    > ないでしょうか?

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