概要
豊胸用組成物の製造行為が医療行為に当たるか否か等が争われた大合議判決です。主な争点は、本件発明が医療行為を含む方法の発明(豊胸手術のための方法)であるか(産業上の利用可能性があるか)(争点2-1)、及び豊胸用組成物は医師などが調剤する医薬に当たるか(争点3-2)です。
具体的には、医師が血液を採取して「自己由来の血漿」を得て製造された組成物を被施術者に投与することを前提とする発明が、産業上の利用可能性の要件(特29条1項柱書き)に違反するか(争点2-1)、及び美容医療に関する発明が、二以上の医薬を混合することにより製造されるべき医薬についての発明(特69条3項)に当たるか(争点3-2)です。
なお、本記事では、弁理士試験の観点から他の争点についての紹介は省略します。
特許発明の概要
特許発明(請求項1に従属する請求項4に係る発明)は以下の通りです。
自己由来の血漿、塩基性線維芽細胞増殖因子(b-FGF)及び脂肪乳剤を含有してなることを特徴とする皮下組織増加促進用組成物からなることを特徴とする、豊胸のために使用する豊胸用組成物(特許5186050号)。
大合議の判断1(争点2-1)
特29条1項柱書きと法改正の経緯を考慮すれば、人体に投与することが予定されている医薬の発明であっても、「産業上利用することができる発明」に当たり特許を受け得る。また、人間から採取したもの(自己由来の血漿)を原材料として医薬品等を製造する行為は、必ずしも医師によって行われるものとは限られず、採血、組成物の製造及び被施術者への投与が、常に一連一体とみるべき不可分な行為であるとはいえない。
そうすると、人間から採取したものを原材料として、最終的にそれがその人間の体内に戻されることが予定されている物の発明であっても、「医療行為を対象とする方法の発明」に当たらず、「産業上利用することができる発明」に当たる。
大合議の判断2(争点3-2)
本件発明に係る組成物の目的は、本件明細書等に記載されているように主として審美にある。このような記載のほか、現在の社会通念に照らしてみても、本件発明に係る組成物は、人の病気の診断、治療、処置又は予防のいずれかを目的とする物ではない。
また、主として審美を目的とする豊胸手術を要する状態を、一般的な意味における「病気」ということは困難であるし、豊胸用組成物を人の病気の診断等のため使用する物ということも困難である。そして、豊胸手術に用いる薬剤の選択については、医療行為の円滑な実施という公益を直ちに認めることはできず、特許権の行使から特に保護すべき実質的理由は見当たらない。したがって、豊胸用組成物は、「二以上の医薬を混合することにより製造されるべき医薬の発明」には当たらない。
終わりに
主な争点についても新しい判断が示されたようには思いませんので、試験上の重要度は低いと判断します。
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