特許事務所に初めて転職する前にやるべき5つのこと

特許事務所(以下、単に事務所ともいうw)に転職するとき、特に未経験者が初めて事務所に転職するときにお勧めする「やるべきこと」をまとめました。そもそも、転職先として事務所が最適なのかという検討もやるべきですが、今回はその点は省いて事務所に転職する前提で説明します。

1.五年後の転職に必要なスキルをまとめる

少なくとも5年間は事務所で勤務をするとして(ただし、人格を否定する上司がいたり、労働法を無視したりするようなブラック事務所は即座に辞めましょう)、事務所でどのようなスキルを身に付けるのかを考え、そのスキルを身に付ける環境が整っている事務所を選択しましょう。

その理由として、事務所は通常小規模企業と同程度であり、事務所に就職してから五年経過したときに、その事務所のがどのような状態にあるのか予測ができないからです。就職氷河期からのビジネスモデル特許バブル、その後のリーマンショックを経た、私自身の経験として、事務所が少なくとも安定している期間は最低で五年程度です。そのため、五年間で次の転職(又は独立)に備える必要があると考えます。したがって、次の転職に必要なスキルをまとめることをお勧めします。具体的に、未経験者が身に付けておきたいスキルとしては、以下のものがあります。

国内明細書の作成スキル
発明者とのヒアリングから明細書を作成するまでのスキルは、他の事務所又は独立後も非常に有効ですので、獲得優先度が非常に高いスキルです。転職に関して注意したい点として、大企業の場合、明細書の原稿に限りなく近い提案書を使って明細書を作成することがあります。この場合、発明者とのヒアリングがないので、スキル(例えば、発明を実施する場面の膨らませ方や、変形例を引き出す話し方など)がほとんど身に付きません。

ただし、中小企業のクライアントがいる事務所でも、特に大企業に特化した教育担当によるOJTだと、打ち合わせで変形例などの発展・応用を聞き出さないことがあります。この点から、教育担当の担当クライアントにも注意が必要です。具体的に、実質的に大企業専門の方が教育担当となったときには、教育担当に対して失礼でない範囲で、所内の他の方にも助言を求めましょう。

なお、国内中間処理のスキルも必須となりますが、事務所でこれを経験できないことは想定し難いです。

外国出願の権利化スキル
外国出願の中間処理のスキルは、事務所によっては身に付けることが至難となります。第1に米国、第2に欧州及び中国、第3に韓国の中間処理のスキルを身に付けることをお勧めします。なお、韓国と中国の中間処理は日本とかなり似ており、且つ両国共に日本語が堪能な代理人がいるので、スキル獲得の優先度がやや下がります。

具体的には、外国出願の件数が多い大企業(大手自動車メーカなど)がクライアントにいる事務所がお勧めです。過去には国内専門事務所などもありましたが、現在は内外統一処理ということで、国内専門事務所は少なくなっていると思います。ただし、国内事務所が単なるメッセンジャー(クライアントの指示を外国代理人へ伝えるために翻訳するだけ)となっていることもあるので、スキルを身に付ける努力が必要なこともあります。ただし、座学では基礎しか身に付きません(処理に使える引き出しが増えない)ので、所内勉強会だけでは足りません。

なお、転職後に当該企業の担当にならない可能性も十分ありますが、その場合には、オフィスアクションと現地代理人コメントを見せてもらうなどしてスキルを身に付けましょう(担当になるように積極的に働きかけることも重要です)。蛇足ですが、外内中間担当は、英語力は身に付くものの他の事務所で活用しにくいので(事務的な処理を除けば比較的に誰でもできる)、内外中間を積極的に獲りにいきたいです。

2.出願件数の推移を調べる


事務所の過去三年の出願件数の推移を調べることによって、事務所が上り調子なのか下り調子なのかが分かります。転職候補として、上り調子で成長中の事務所を探すのが大事です。特に、求人を出しているからといって、成長中であるとは限りません。求人では「業務拡大のため」等と書かれていても、実際には規模縮小で人材が離れたための求人というのも少なくありません。そこで、事務所が実際に成長中であるのか否かを、出願件数で調べることが得策です。

具体的に、J-PlatPatで、代理人欄に所長名(又は特許業務法人名)を入力して検索してもよいですが、代理人に所長が入っているとも限りません。そこで、出願件数は、知財ラボの特許事務所ランキングで調べるのが有効です。なお、過去三年分の出願件数といいましたが、公開されるまでに一年六月かかりますので、実際には一年六月前の推移となります。

知財ラボより引用)

また、ランキングの上位で成長中の事務所は、大抵求人中ですので、ここで目星をつけるのもよいと思います。そのうえで、身に付けるべきスキルと関係する事務所を選別しましょう。蛇足ですが、化学、電気、ソフトウェアという程度の技術分野でならば、自分の得意分野で事務所を探すのは有効です。しかし、自分の得意分野にこだわっても、採用後にその分野の仕事をできるとは限りません。目安程度にしておいたほうがよいと思います。

3.「良い」口コミを調べる

事務所の選別が済んだら、その事務所の口コミを調べるのは、大事な情報収集です。ただし、口コミを書いているのが「退職者」又は「転職予定者」であるというバイアスがあります。つまり、事務所に不満を持つ人間が書いている内容ですので、基本的には悪いことが口コミの主な内容となります。中には、意図的に悪い口コミを書くこともあります。その中で、「良い」口コミは、信ぴょう性が高いと評価できます。なお、多くの口コミで共通しているポイントがあれば、それはバイアスがかかっていないので、「悪い」口コミであっても参考になります。

口コミを調べるためには、以下のような口コミサイトに登録するのがお勧めです。ただし、口コミの情報がない事務所も多いので、あればラッキーという程度の考えでよいです。とはいえ、ランキングの上位で成長中の事務所ならば、口コミがあることがほとんどです。

「転職会議」

転職会議より引用)

「en Lighthouse」

en Lighthouseより引用)

「OpenWork」

OpenWorkより引用)

4.試験勉強の所内支援制度を調べる

弁理士試験に合格していない場合には、試験勉強の支援制度が事務所にあるかどうかを調べましょう。支援制度がある事務所は、採用情報の欄に制度内容が記載されていることが多いです。具体的には、試験前休暇の付与と、勉強費用の補助とが一般的です。事務所に就職する場合、弁理士資格は獲得すべきスキルの筆頭となります。

しかし、業務多忙で勉強時間が作れなかったり、そもそも弁理士資格の取得を奨励していない事務所もあります。そして、上司や同僚に隠れて勉強するのも大きなストレスになります。そこで、少なくとも資格の取得が奨励されている環境に身を置くことが重要です。特に、短答試験又は論文試験の直前期に試験休暇を取得できることは、大きなアドバンテージになります。そのため、試験勉強の所内支援制度の有無を調べることは重要です。

5.エージェントに登録する

エージェントに登録するメリットは、表に現れない非公開情報をチェックできる点と、事務所の採用担当者に直接推薦してもらえる点ににあります。

・非公開情報をチェックできる
事務所が公開している採用情報にはない情報として、例えば、採用試験の内容、事務所職員の年齢構成、求められている人材の性格・年齢などがあります。特に、採用試験で筆記試験がある場合、その内容は、事前情報があるのとないのとでは心構えが変わってきます。そのため、非常に有用な情報となります。

また、売り手市場なのか買い手市場なのかは重要な情報ですが、エージェントを利用すると、これを知ることができます。特に、事務所の求人には求人数が多い時期がありますので、転職時期に余裕があれば、より求人の多い時期を狙うのがお勧めです。そのため、エージェントを利用して、求人数が多い時期であるか否かを確認するのが有効です。

・応募条件を満たさなくとも推薦される

年齢、学歴・経歴、などの条件を満たさない場合であっても、エージェントを通じて推薦してもらえることがあります。特に、うまく採用活動が進まずに、当初よりも条件を下げていることがあります。そのような場合、条件から外れていても、エージェントから推薦を受けて採用に至ることがあります。例えば、自分が、文系、35歳以上、未経験などであるならば、エージェントの利用を必ず検討すべきです。

また、エージェントの推薦であれば、エージェントが直接応募者を事務所に紹介するため、書類選考を省略できます。つまり、選考が面接から始まるので、応募の手間が減るというのもありがたいです。ただし、面接時に履歴書や職務経歴書が要求されますので、応募書類を作成しなくともよいというわけではありません。

ちなみに、私(文系40代)の場合、エージェントを通さずに大規模事務所(所員100人以上)に応募した時は、書類選考すら通りませんでした。しかし、エージェントを通したときには、少なくとも一次面接と筆記試験を受けることができました。そのため、これだけでもエージェントの利用が非常に有利だと思いました。

※エージェントについての注意点
エージェントが勧める事務所は、求人している事務所の全体の中でもサービスに登録しているごく一部の事務所だけです。さらに、エージェントが、当該事務所に推薦するに足りる能力を持っていると判断したときに、求人を紹介してもらえます。つまり、求人している事務所の中でエージェントを利用している事務所の中から、さらに推薦に足りると判断されたときにだけ、紹介してもらえます。

そのため、実際にエージェントから紹介してもらえる事務所は、求人している事務所の中の極一部となります。したがって、自分が応募したい事務所を紹介してもらえなかったり、または推薦してもらえる事務所がなかったりします。このときに、所員を使い捨てにするような事務所が選択肢に入ってきてしまう可能性もあります。これを避けるためには、自分が希望する残業の程度を、エージェントには正直に話すのがよいと思います。

登録すべきエージェント

以下のエージェントは、私が利用したことのあるエージェントの中でも特に事務所に強いので、登録をお勧めします。エージェントの中には、企業に強いところと事務所に強いところとがあり、事務所の中に入って話を聞いているエージェントはあまり多くありません。そのため、事務所が第一の転職先候補であるならば、以下のエージェントに登録することをお勧めします。

なお、エージェントのとの打ち合わせは、電話、面談、オンライン面談ができ30分から1.5時間程度です。簡単に隙間時間の予約ができるので、気軽に面談できるのはありがたいです。なお、面談前に履歴書の情報及び職務経歴書の情報を登録しておくと、面談がスムーズです。また、絶対に譲れない条件(勤務地、勤務時間、勤務体系、給与等)があれば、面談時にエージェントに伝えると、事務所のニーズとの不一致が避けられます。

・リーガルジョブボード(株式会社WILLCO)

メリット
 弁理士専門のエージェントがいるので、事務所の内情に詳しい
 小規模事務所の求人が多数あるので35歳以上や文系の求職者でも転職しやすい
 大規模事務所の応募を無理に勧められることがない
デメリット
 大規模事務所・企業知財部の求人が比較的に少ないので、教育環境が整っていない事務所の応募を勧められる可能性がある

知財・弁理士お仕事ナビ(アスタミューゼ株式会社)

知財・弁理士お仕事ナビから引用)

メリット :
 事務所の内情に詳しいエージェントが在籍している

 大規模事務所の求人が多数あるので、未経験者であっても整った環境で仕事を身に付けることができる
デメリット
 大規模事務所の応募を勧められるので、40歳以上の求職者だと転職後にニーズに合致しない(仕事量の割に収入が少ない等)可能性がある

コメント

  1. […] そして希望がある条件ですが、①弁理士であること、②国内明細書を書けること、及び③外国中間手続きを処理できることです。弁理士と国内明細書についての説明は不要でしょう。外国中間手続については、やはり国内と比較して単価が倍以上であるという点が大きいです。上記の条件を満たすように努力して、上記の環境の職場に転職することは、計画的にできます(転職については「特許事務所に初めて転職する前にやるべき5つのこと」をご参照ください ※売り上げベースであるか否かの確認はエージェントの利用が効率的です)。 […]

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