弁理士試験-商標法上の先願の地位

商標法上の先願の地位
商標法の先願の地位 – TU
2009/12/27 (Sun) 12:22:27
いつも大変勉強になっております。以下の質問よろしくお願いいたします。
商標法は特許・実用新案・意匠法と違い無効審判等で権利が消滅した場合、先願の地位も消滅すると解釈してよろしいのでしょうか?
4条1項13号反対解釈より、商標権が消滅した日から1年が経過した他人の商標と同一・類似範囲において使用でき出願できるということは、つまり一年経過後はその先願の地位が消滅したという事でよろしいのでしょうか?それとも先願の地位は残るけれども、登録されていなければ4条1項11号の適用にはならないので特段問題にはならないという事なのでしょうか?
Re: 商標法の先願の地位 – 管理人
2009/12/27 (Sun) 21:12:06
特実意とは異なり、商8条3項には「商標登録出願が放棄され取り下げられ若しくは却下されたとき、又は商標登録出願について査定若しくは審決が確定したときは、その商標登録出願は、前二項の規定の適用については、初めからなかつたものとみなす。」と規定されています。
ここでは、「審決が確定したとき」を素直に読んで、無効・取消審判をも含むと解釈すれば良いと思います。
じゃあ、登録・維持審決はどうするのだ?と言う点は、目をつぶりましょう。
Re: 商標法の先願の地位 – ペンキ
2009/12/28 (Mon) 18:21:14
先程の説明は、前段部分に大きな誤りがあることが分かりましたので、以下に修文いたします。
>商標法は特許・実用新案・意匠法と違い無効審判等で権利が消滅した場合、先願の地位も消滅すると解釈してよろしいのでしょうか?
いえ、商標法も、特許法・実用新案法・意匠法同様、無効審判等で権利が消滅した場合でもいわゆる先願の地位は残ると考えます(商8条3項)。
商8条3項の趣旨は、、条文上「査定若しくは審決が確定したとは、・・・」とあるので、登録の査定または審決が確定したときも遡っていわゆる先願の地位が失う如く解されます。登録の査定または審決が確定したときは、それ以降は商4条1項11号によって後願を排除できるので先願の地位を維持させる必要はないと現行法制定時の立法者は考えたのかもしれません。
しかし、そのように解すると、例えば後願が過誤登録された後に先願が登録された場合(先願は商4条1項11号に該当しないので登録されえます)、先願者は過誤登録に対する無効審判を請求できなくなってしまいます。後願登録時点では商8条1項違反の無効理由があったのに、先願が登録査定または審決の確定により「初めからなかったもの」とみなされれば、後願の商8条1項違反は遡って解消してしまうからです。
したがって、商8条3項は、権利化されないことに確定した商標登録出願が、先後願関係・競願関係において、同条1項・2項における先願ないしは競合出願としての地位を保持し得ないことを規定したものであり、かつ、ただそれだけの目的のために設けられた規定であると解されますから、文理上の解釈にかかわらず登録の査定または審決の場合には適用されないと解する必要があると考えます。このように理解すれば、後願の過誤登録は、当然、商8条1項に違反したものとして、これを無効とする現行商標制度上の合理性があるものと考えられます。
よって、商8条3項の「査定若しくは審決が確定」というのは、拒絶の査定もしくは審決の確定と読む必要があると考えますので、無効審判等でいわゆる無効審決や取消決定が確定した場合は、商標権は、消滅しますが、いわゆる先願の地位は喪失しないと考えます。
管理人さん、ご質問をされた方、大変失礼いたしました。まだまだ不勉強であると痛感しております(大汗)。
Re: 商標法の先願の地位 – 管理人
2009/12/28 (Mon) 20:15:50
ペンキさん
ご回答ありがとうございます。
おっしゃる点は理解できますが、2つの疑問が生じます。
一つ目は、商8条3項の「査定若しくは審決が確定」というのを、拒絶査定もしくは審決の確定と限定解釈するのは、特実意の「拒絶をすべき旨の査定又は審決が確定」との規定との相違に説明がつかないこと。
もう一つは、例えば不使用取消により取り消された商標と同一の商標について過誤登録された同日出願に係る商標権がある場合に、再出願すれば適法に商標権を取得できるにもかかわらず、無効理由を有するという矛盾が生じることです。
いずれにしても、商8条3項を文言通りに解釈することはできませんので、もう少し調べてみます。
Re: 商標法の先願の地位 – ペンキ
2009/12/30 (Wed) 18:28:44
ご指摘の点について
商8条3項の解釈として、弁護士の松尾先生は、「「出願について査定又は審決が確定したとき」の意味は明瞭ではない。これが登録をなすべき旨の査定または審決が確定した場合とみることは合理性がないから、商8条1項、2項との関係では出願について、拒絶すべき旨の査定又は審決が確定した場合と理解する必要がある。」(注解・商標法 538p)と述べており、上記にて説明しました網野先生の見解(商標 681~682p)とともに、現行商標法においては、このように理解することが必要ではないかと考えます。
なお、特許法・実用新案法・意匠法(以下、特許法等という)の3法と、商標法でのいわゆる先願の地位の捉え方が相違するのは、特許法等の保護客体が新規性等基本とする知的創作であるのに対して、商標法の保護客体が商標に化体されあるいは化体されるべき業務上の信用であることに由来しているからと考えます(商標法50講 96p)。
因みに、昭和34年の現行商標法全面改正時の際の審議に携わった兼子先生は、商8条3項について、「本条3項で「査定若しくは審決が確定したときは、その商標登録出願は、前二項の規定については、初めからなかったものとみなす」とされているため、この査定、審決が登録なすべき旨を判断した場合には問題が残る。すなわち後願について登録をなすべき旨の査定、審決が確定した場合、先願者あるいは他の競願者との関係では、先後願、競願の関係になかったとみなせば当該の査定または審決にもとづき登録をしたものに対し本条1項・2項違反という問題は生じないはずである。ところが、これを商46条1項1号は無効理由としているのであるから、この3項の解釈はいちじるしく複雑とならざるを得ない。」と指摘し、「本項は、出願から生じた一切の状態を消失せしめることを擬制する点で特徴的である。それだけに解釈上問題を生じやすい。」との見解を述べています(工業所有権法752~753p)。
ご参考にしていただければ幸いです。
Re: 商標法の先願の地位 – saru
2010/01/02 (Sat) 00:07:07
「いえ、商標法も、特許法・実用新案法・意匠法同様、無効審判等で権利が消滅した場合でもいわゆる先願の地位は残ると考えます(商8条3項)。」
そうすると、権利が消滅した商標については、後に出願しなおした場合に、4条1項11号の適用がなく登録されたとしても、8条1項の無効理由を有する(つまり、出し直しはできない)ことになるのでしょうか??
また、4条1項11号の拒絶理由があった場合の措置として、他人の登録商標の取消審判の請求等は意味がないのでしょうか?
Re: 商標法の先願の地位 – ペンキ
2010/01/02 (Sat) 07:15:44
>そうすると、権利が消滅した商標については、後に出願しなおした場合に、4条1項11号の適用がなく登録されたとしても、8条1項の無効理由を有する(つまり、出し直しはできない)ことになるのでしょうか??
我が国の商標法が先願主義制度を採用している以上、ご指摘の通りにならざるを得ないと考えます。
>また、4条1項11号の拒絶理由があった場合の措置として、他人の登録商標の取消審判の請求等は意味がないのでしょうか?
意味がないわけではありません。ご指摘の商4条1項11号は、他人の商標権と抵触する商標は、商品(役務)の出所の混同を生じさせるおそれがあることから、商標登録を受けることができない旨を規定したものであると考えます。
したがって、本号の拒絶理由を受けた場合の対応として、例えば、審査官が拒絶理由の根拠とした引用の登録商標が継続して3年以上不使用のものであったり、無効事由がある場合には、その登録について取消審判や無効審判をそれぞれ請求することが可能であり(商50条等)、その審判が成立し、引用の商標権との抵触関係がなくなれば、本号の拒絶理由は解消することになると考えます(注解・商標法290p)。
Re: 商標法の先願の地位 – 商標
2010/01/03 (Sun) 01:59:50
「いえ、商標法も、特許法・実用新案法・意匠法同様、無効審判等で権利が消滅した場合でもいわゆる先願の地位は残ると考えます(商8条3項)。」
上記のように解釈すると、青本8条の「8条1項違反で拒絶すべき場合は必ず4条1項11号違反になるから8条1項違反を拒絶理由としておく意味がない」との記載と矛盾するような気がします。
先願に係る商標権が消滅した場合、後願は、4条1項11号には該当しませんが、8条1項違反があることになりますので。
Re: 商標法の先願の地位 – ペンキ
2010/01/03 (Sun) 04:34:55
商8条の立法趣旨について、弁護士の松尾和子先生が、下記書籍にて我が国の商標法において本条に規定する先願主義制度を導入した経緯を含めてある意味で分かりやすく説明しております。皆さんが疑問に思っている点も含めて、本条の理解が深まるものと考えますので、是非、ご参照いただければと思います。
注解・商標法(新版)530~538p (青林書院)
Re: 商標法の先願の地位 – 管理人
2010/01/04 (Mon) 22:39:54
色々調べた結論を言うと、無効・取消に係る商標権は、先願の地位を有さないというのが私の意見です。
まず、当初の私の回答とは異なりますが、商8条3項の「商標登録出願について査定若しくは審決が確定したとき」とは、拒絶査定又は審決の確定を意味し、登録・無効・取消審決は含まないと解します。
なぜなら、「商標登録出願について」とあるため、登録後に生じる無効・取消審決は含まれる余地がないためです。
また、登録査定により後願排除効を失うと解するのは、先願主義の趣旨からして妥当ではないからです(網野同趣旨)。
※ 今回調査の過程では、商8条3項の「査定若しくは審決」に登録査定又は審決を含むという説の先生もいらっしゃいました。なお、この場合、過誤先登録の後願を無効にするためには、商8条1項の趣旨に反するという理由で、同項による無効を主張することができると思います。
さて、商8条3項に無効・取消審決が含まないと解すると、無効・取消に係る商標権が先願の地位を有さないと結論付けるための根拠が必要となります。
この点、商8条1項の先願主義とは、先願と抵触する重複登録を避けようとした規定であると解されます(平成 18年 (行ケ) 10506号)。
そして、商47条(5年の除斥期間)が存在することからしても、重複した商標登録の併存を法が許容しない程度は、特許法や意匠法等よりも低いと解されます(つまり、同一類似の商標を排除する要請が弱い)。
であれば、商標法においては特許法等と同様に先願の地位を解釈する必要は無く、商標権が消滅すれば先願と抵触する重複登録を避けることができるわけですから、その時点で先願の地位を失うと解するのが妥当であると思います。
これは、商4条1項13号において、商標権が消滅した日から一年を経過すれば登録を受け得る点にも合致します。
とういわけで、私の私見としては、商8条3項の「商標登録出願について査定若しくは審決が確定したとき」とは、拒絶査定又は審決の確定を意味し、登録・無効・取消審決は含まれないが、商標法における先願主義の趣旨からして無効・取消に係る商標権は先願の地位を有さないと解します。
【関連記事】
「過誤登録時の先願」
「商標の登録査定と先願の地位」

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コメント

  1. 今年こそ より:

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    >>とういわけで、私の私見としては、商8条3項の「商標登録出願について査定若しくは審決が確定したとき」とは、拒絶査定又は審決の確定を意味し、登録・無効・取消審決は含まれないが、商標法における先願主義の趣旨からして無効・取消に係る商標権は先願の地位を有さないと解します。
    のお説には矛盾を感じます。
    「商標登録出願について査定若しくは審決が確定したとき」を分解すると、「商標登録出願について」ですので、
    ●商標登録出願について登録査定が確定したとき
    ●商標登録出願について拒絶査定が確定したとき
    ●商標登録出願に係る拒絶査定不服審判で登録審決が確定したとき
    ●商標登録出願に係る拒絶査定不服審判で拒絶審決が確定したとき
    の4つになります。条文文言の文理上、そもそも「無効審決・取消審決」は、全く含まれる余地がありません。

  2. ドクガク より:

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    まず、商8条3項の規定から、「無効審決・取消審決」は、全く含まれる余地がないのはおっしゃる通りです。
    私の説では、それを前提として、特許法等と商標法では先願の地位の取り扱いが異なると解釈しています。
    つまり、実務上、選択物である商標において、取り消された商標に先願の地位が残るのは妥当ではないのは明らかです。
    そのため、商標権が消滅すればその時点で先願の地位を失うと解しているのです。
    この説に異論があるのは承知していますが、取消・無効商標に先願の地位が残るとすると、後願に係る登録商標が無効となることを意味しますので、当該矛盾を説明できないと思います。

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