「赤い彗星」が商標登録された件を真面目に解説

「赤い彗星」が商標登録された件を真面目に解説
先日、「赤い彗星」などが商標登録されたこと(商標登録第5544399号)ニュースにしましたが、今日は真面目に解説しようと思います。※商標のプロの目から見たら穴があるかもしれませんので、その場合は「優しく」御指摘下さると幸甚です。
まず、一般的なガノタの感覚として、今回の商標登録には釈然としないものがあると思います。この状態を弁理士試験的に表現するならば、フリーライド(つまり、商標又はキャラクター等の著名性へのただ乗り)に当たるので、許されるべきではなという感覚ではないでしょうか。それにも関わらず、今回商標登録された理由の大きなポイントは、「赤い彗星」等が商標ではなかった点があげられると思います。言い換えると、商品又はサービスのマークとして「赤い彗星」等が使用されていない(多分・・・)ということです。
まず、フリーライドするような商標の登録が商標法的に許されないのかを考えます。
この場合に考慮すべき条文としては、
①商4条1項10号(他人の業務に係る商品等を表示する周知な商標の登録を拒絶する規定)
②商4条1項15号(他人の業務に係る商品等と混同を生ずるおそれがある商標の登録を拒絶する規定)
③商4条1項19号(他人の業務に係る商品等を表示する著名な商標を、不正の目的をもって使用をする場合に、その商標の登録を拒絶する規定)
そして、④商4条1項7号(公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標の登録を拒絶する規定)
でしょうか。
順を追って説明すると、まず①商4条1項10号については、いわゆる未登録周知商標の保護を目的とする規定です。そのため、「赤い彗星」等が商品又はサービスのマークとして使用されていなければ本条は適用の余地がないと思われます。
次に②商4条1項15号についてですが、これはいわゆる広義の混同(他人と経済的又は組織的に何らかの関係があると誤認する)をも含む概念ですので、摘要の余地はありそうです。しかし・・・例えば「赤い彗星」が、現実の誰かの業務と認識される可能性があるのでしょうか?この点、シャア・アズナブル氏の連邦政府に対する反乱業と混同する可能性はありそうですが、残念ながらシャア・アズナブル氏は現代の方ではありません。したがって、本条も適用の可能性がないと思われます。
では③商4条1項19号はどうでしょう?こちらも①と同様に、「赤い彗星」等が商品又はサービスのマークとして使用されていなければ本条文は適用の余地がないと思われます。
結局、商標法的に許されないとするならば、昨年解説したように、商4条1項7号によって登録を拒絶するしかないことになります。※実際に、歴史上の著名な人物(故人)の異名であれば登録が拒絶されます(審査便覧)。しかし現実には登録されており、特許庁はシャア・アズナブル氏が存命であるという情報を入手しているとしか考えられ・・・違う
冗談はさておき(ちなみにシャア・アズナブル氏が現実に存命の場合は商4条1項8号(他人の氏名等を含む商標の登録を拒絶する規定)で拒絶されます)、商4条1項7号によって拒絶することはできますが、これでは恣意的な運用ができてしまうので何でもかんでも商標登録を拒絶するとなると、それはそれで問題です。そのため、特許庁では商4条1項7号が適用されるためには、単に「赤い彗星」等が顧客誘引力を持っている(つまり、購入の動機になる)だけでは足りず、その言葉自体が著名である必要があると考えているのかもしれません。※本件において、「赤い彗星」等が顧客誘引力を持っているのは、商標権者の出願経過等から明らかだと思いますし、商標権者がフリーライドを狙っているのも明らかだと思います。
そう考えると、登録されてしまったのもなんとなく理解できます。ただ、これが許されるならアニメキャラの異名等は登録し放題なわけで・・・そんなことを許しちゃダメだろうと思うんですけどね。なお、可能性としては、株式会社創通さんとか、株式会社サンライズさんの許諾を得ていることも考えられますが、実際はどうなんですかね?
最後に、本件商標登録の影響ですが、かなり大きいと思います。本登録商標の指定商品は32類の「ビール,清涼飲料,果実飲料,ビール製造用ホップエキス,乳清飲料,飲料用野菜ジュース」と33 類の「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」ですが、赤い彗星に親しんだ層は既に飲酒できる年齢ですし、ガンダムカフェでも「赤い彗星」というお酒を提供しています。ですので、権利者側が今後「赤い彗星」というお酒を販売する可能性もありますし、「赤い彗星」という文字を付したペプシ等の清涼飲料を販売する可能性もあります。こういう商売が制限されてしまうというのは、少なくとも株式会社創通さんにとっては大きな痛手だと思うからです。
なお、言うまでもないですが、アニメや漫画に「赤い彗星」等を記載することや、ネットで使う分には商標権の侵害にはなりません。
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