珍しい知財判決集 平成27年

珍しい知財判決集 平成27年
平成27年(ネ)第10024号:平成27年10月29日判決言渡
平成25年(ワ)第10151号:平成26年12月25日判決言渡
「損害賠償請求控訴事件」
原告及び被告(の従業者)以外の第三者が発明者である冒認出願を理由に無効な特許権の行使が否定された事例。原告(控訴人)の代表者は、被告(被控訴人)から再三にわたり発明の着想経緯を明らかにするよう求められていたにもかかわらず具体的な経過を明らかにせず、訴え提起から約1年3か月後に行われた本人尋問の後2か月が経過して初めて主張を始めた等として、原告代表者が着想したことの信用性を否定した。そして、原審が発明者であると認定した訴外A(原告代表者の友人であり、技術に精通しており且つ本発明の明細書を作成する等を行った者)が着想したことが強く推認できるとして、冒認出願による無効を理由に特許権の行使を否定した。ちなみに、訴外Aは被告側補助参加人の従業者だった者であり、韓国において訴外Aの特許権の帰属に関して補助参加人との間で争っていた。
平成26年(行ケ)第10158号:平成27年7月16日判決言渡
「審決取消請求事件」
審判請求書の添付書類である「提出物件」として手続補正書が提出され、当該手続補正書による補正の有効性が争われた事例。特許庁は、手続補正書は独立した書類であるから、審判請求書の添付書類である「提出物件」となるようなものではないとして手続補正書の提出がないと主張した。しかし、知財高裁は、拒絶査定不服審判請求書の【提出物件の目録】欄に「手続補正書」を記載してはならないことを定めた法令が存在していること、または特許庁がそのような運用基準を定めて公表していることについての主張立証はない等として、手続補正書の提出を認めて(補正されたことを看過したとして)拒絶審決を取り消した
平成26年(行ケ)第10242号:平成27年6月10日判決言渡
「審決取消請求事件」
特許請求の範囲を詳細に書くように指示しておきながら詳細に記述すると、今度は、当初の内容と異なるため当初の明細書等の範囲内ではないとして却下するのは不当である等と主張して補正却下に伴う拒絶審決の取り消しを求めた事例。かなり無理筋な訴訟に思えたが、実際には「シュレッダ-補助器の横幅約35cm」を「シュレッダ-補助器の横幅は、各メ-カ-の各機種の刃部分の横幅に、入るように対応した横幅の長さとし」とする補正について、当初明細書等に開示された発明の技術的課題及び作用効果、さらにはこれらに開示されたシュレッダー補助器の具体的な形状等を参酌した上で、当初明細書等の記載から自明な事項であると認定され、審決が取り消された。
平成26年(行コ)第10004号,同第10005号:平成27年6月10日判決言渡
「行政処分取消義務付け等請求控訴事件,同附帯控訴事件」
弁理士が誤って補正をした結果の特許査定を取り消すことができるとした地裁判決を覆した事例
東京地裁は、補正書の内容は拒絶理由と全くかみ合っておらず、出願人の真意に基づき作成されたものとはおよそ考え難いとして、補正の内容が原告らの真意に沿うものであるかどうかを確確認すべき手続上の義務を怠ったものであり手続上の義務違背があったとして、特許査定の取消を命じていました。しかし、知財高裁は、本特許査定の取消しの訴えは、特許査定謄本の送達から6か月以内に提起されなければならず、行訴法14条1項の出訴期間を徒過して提起された不適法な訴えであるとして訴えを却下しました。
なお、特許査定に対しては行訴法による取消しの訴え又は無効確認の訴えができると判示されているほか、以下の点が興味深いです。
①特195条の4の「査定」の意味について
特195条の4の「査定」の文言は、特許査定及び拒絶査定の両方が含まれ、特許査定に対して行服法による不服申立てをすることは認められない(行服法による異議申立てもできない)。そして、特許査定の取消しの訴えは、特許査定謄本の送達から6か月以内に提起されなければならず、行訴法14条1項の出訴期間を徒過して提起された不適法な訴えである。
②補正書の記載が(出願人の)錯誤により無効となるかについて
特許法上は、書面が作成者の真意とは異なる(齟齬がある)としても、作成者の真意を問わずに書面の記載に従って手続が進められる。そのため、錯誤が認められる場合としては、その齟齬が重大なものであることに加えて、少なくとも当該書面の記載自体から錯誤のあることが客観的に明白なものであり、その是正を認めたとしても第三者の利益を害するおそれがないような場合であることが必要である。なお、本件記載自体からは、錯誤があることが客観的に明白なものと認めることはできないし、その是正を認めた場合に第三者の利益を害するおそれがないということもできないので、出願人に錯誤があったことを理由に補正が無効であるということはできない。
③審査官が出願人の真意を確認する義務を負うかについて
審査官は、出願人の出願に係る上記書面に記載された発明が特許要件を満たすかどうかを判断すれば足り,これを超えて、出願人の出願内容がその真意に沿うかどうかを確認すべき義務を負うものではない。 ←そりゃそうだろうが残念。
④特許査定が無効とされる場合について
審査官が特許出願に対する審査を全くすることがなかったか、あるいは実質的にこれと同視すべき場合には、これによる査定には、法の予定する審査を欠く重大な違法がある(無効とされ得る)。補正が新規事項の追加に当たるという新たな拒絶理由が生じることを看過して特許査定に至ったものとしても、検討過程や検討結果が明らかに不合理であるとまでいうことはできないので、本件特許査定が無効であるということはできない。
平成24年(行ウ)第591号:平成26年3月7日判決言渡 ※↑の前訴
「行政処分取消義務付け等請求事件」
審査官との電話面接により、補正案通りに補正されれば特許査定できる旨の返答をしたが、弁理士が誤って合意した補正案とは異なる補正をしてしまい、そのまま特許査定されてしまったために特許査定の取消を求めた事例。地裁は、特195条の4にいう「査定」には処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定は含まれないとして、それが主張される限り特許査定は「他の法律に審査請求又は異議申立てをすることができない旨の定めがある処分」(行服法4条1項但し書き)に当たらないから、適法に異議申立てをできるとしました。
そして、「拒絶理由と意見書又は補正書の内容が全くかみ合っておらず、出願人の真意に基づき作成されたものとはおよそ考え難い場合であって、そのことが審査の経緯及び補正の内容等からみて審査官に明白であるため、審査官において補正の正確な趣旨を理解して審査を行うことが困難であるような場合」には、審査官は、特許出願人の手続的利益を確保し、自らの審査内容の適正と発明の適正な保護を確保するため「補正の趣旨・真意について特許出願人に対し確認すべき手続上の義務を負う」と認定しました。
その上で、本件補正書の内容は拒絶理由と全くかみ合っておらず、出願人の真意に基づき作成されたものとはおよそ考え難いとして、本件補正の内容が原告らの真意に沿うものであるかどうかを確確認すべき手続上の義務を怠ったものであり手続上の義務違背があったとして、特許査定の取消を命じました。なお、出願人は特許査定の無効も主張していましたが、これについては棄却されています。
平成27年(行コ)第10001号:平成27年6月10日判決言渡
「特許庁長官方式指令無効確認請求控訴事件」
平成26年(行ウ)第529号:平成27年2月18日判決言渡 ※↑の前訴
「特許庁長官方式指令無効確認請求事件」
手続補正指令による9万9000円の審判請求料について、納付義務がないことの確認を求めた事例。出願人は、無資力者として審査請求料の全額免除を受けており、特許庁長官による本件補正命令は裁量権を超えた権利の濫用であって無効であると主張した。しかし、補正命令は行政処分ではなく、行政処分に当たる手続却下の処分後に、当該却下処分の取消しを求める中で補正命令の違法を主張するべきであり不適法である。として、訴えが却下された。
個人的には、頑張って無効を勝ち取って欲しかった。
平成26年(行ケ)第10080号:平成26年12月24日判決言渡 ※↑の前訴
「特許庁長官方式指令取消等請求事件」
拒絶査定不服審判において不足料金の補正を求める手続補正指令の取り消しを求めた事例料金の補正を求める手続補正指令は、取消訴訟の対象となる行政処分とはいえないと認定し、不適法でありその不備を補正することはできないとして、訴えが却下された。
平成25年(行ケ)第10011号:平成27年5月14日判決言渡
「審決取消請求事件」
被告である商標権者が何もしなかったのに、原告である無効審判請求人に勝訴できた事例。本件商標は「DEEP CLEANSING OIL」の欧文字と、ハングル文字とを上下二段に横書きしてなるものである。そして、本件商標登録を維持する旨の審決に対して審決取消訴訟が提起されたが、被告は口頭弁論期日に出頭せず且つ答弁書その他の準備書面も提出しなかった。しかし、裁判所は、本件商標登録の出願時及び査定時において、「DEEP CLEANSING OIL」の商標は、「皮膚の深部又は深いところからきれいにするクレンジングオイル」という商品の品質ないし用途を表示するものとして認識されていたとして、その識別力を否定して、商4条1項10号の他人の周知商標には当たらないと認定した。そして、本件商標登録を維持する旨の審決についても肯定された。
いや~被告が何もせずに勝訴ってあるんだね・・・びっくり。
平成26年(ワ)第5064号:平成27年3月26日判決言渡
「実用新案権侵害差止請求権不存在確認等請求事件」
被疑侵害者の取引先等に対して、否定的な評価書を隠して実用新案権に抵触する旨を通知した行為が不正競争行為に当たるとされた事例。裁判所は、実用新案権者は、技術評価書において考案に進歩性がない旨の評価を受けており、その権利行使が否定される蓋然性が高いことを認識していたと認定した。その上で、否定的な技術評価書を提示することなく実用新案権に抵触する旨の通知が、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知に該当すると認定され、行為の差し止め及び損害賠償が命じられた。
平成26年(ネ)第10063号:平成27年4月14日判決言渡
平成25年(ワ)第8040号:平成26年4月17日判決言渡
「著作権侵害行為差止等請求控訴事件」
応用美術に属する幼児用椅子(トリップ・トラップ)が著作物に該当するか否か等が争われた事例。原審においては、応用美術が著作物であるためには、実用的な機能を離れて見た場合に美的鑑賞の対象となり得るような美的創作性を備えていることを要するとして、当該幼児用椅子は著作物に当たらないとされた。一方、知財高裁では、創作的表現は作成者の個性が発揮されなければならず、表現が平凡かつありふれている場合は個性が発揮されたものとはいえないとしたものの、応用美術に一律に適用すべきものとして高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず、個別具体的に作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきであるとの判断を示した。そして、左右一対の部材の2本脚である点等において、作成者の個性が発揮されている等として著作物性を認めた。ただし、被疑侵害製品が4本脚であり非類似であるなどとして、著作権の侵害は否定された(原告著作権者の全面敗訴)。
なお、個人的には「応用美術につき、意匠法によって保護され得ることを根拠として、著作物としての認定を格別厳格にすべき合理的理由は見出し難い」との言及が注目される。あと、応用美術である場合に実用的な機能に係る部分とそれ以外の部分とを分けることは困難を伴うことが多いと言いつつ、応用美術は実用目的にかなう一定の機能を実現する必要があるので、個性が発揮される選択の幅が限定され著作物性を認められる余地が狭いと言うのはどうだろうかね。応用美術の実用部分を区別することは困難であるが、実用部分では個性の発揮が制限されるってこと?
平成26年(ネ)第10099号:平成27年3月11日判決言渡
平成26年(ワ)第3672号:平成26年9月11日判決言渡判決言渡
「特許出願願書補正手続等請求控訴事件」
共同発明者の一人が、拒絶査定が確定した出願に係して発明者名誉権侵害に基づく慰謝料の支払い等を求めた事例拒絶査定が確定した場合には、発明者の人格的利益(名誉)の社会的評価は法的保護に値する程高くはないことが多く、特段の事情がない限りその侵害は不法行為とならないと認定し、原地裁判決と同じく訴えが却下及び棄却された。
平成25年(ワ)第21383号:平成27年2月18日判決言渡
「発信者情報開示請求事件」
被疑侵害者について、必須宣言特許に係るパテントプールの管理運営会社は、「特許権者が差止請求権を有する旨」を小売店に対して告知又は流布してはならない旨が判示された事例。本件の被告はブルーレイディスク製品に関する必須宣言特許のパテントプール管理運営会社であり、原告はブルーレイディスク製品の販売会社である。そして、被告は、「被告の管理する特許権に係るライセンスを受けていない製品の販売は特許権侵害を構成し、特許権者は差止請求権を有する旨」の通知書を原告の取引先の小売店に対して送付しており、原告はその差し止めを求めた。
まず、知財高裁は、被告は特許権者からの委託を受けて告知を行ったのであるから、原告の競業者である特許権者のいわば代理人的立場にある者として、原告との間に競争関係を認めた。また、FRAND条件によるライセンスを受ける意思のある原告に対して、差止請求権を行使することは権利の濫用として許されない場合に、差止請求権があるかのように告知することは「虚偽の事実」の告知であると認定し、不競2条1項14号の不正競争に該当すると判示した(特許権侵害行為である旨の記載については、差止請求が権利濫用となっても特許権侵害行為の存在は否定されないから、虚偽の事実を摘示するものではないとの言及もある)。
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コメント

  1. […] 拒絶査定不服審判において、特許査定すべき旨の審決に対しては、再審も提訴もできると思われます。実際、特許査定の例ですが、行訴法による取消しの訴え又は無効確認の訴えができると判示された事例があります(平成26年(行コ)第10004号,同第10005号)。https://benrishikoza.com/blog/hanrei-h27/無効審判において特許を維持すべき審決が出た場合には、当然再審も提訴もできます。被請求人としても、一部無効審決に対する再審・提訴の理由があります。 […]

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